月刊ライフビジョン | 社労士の目から

医療費削減は三位一体で

石山浩一

 政府の全世代型社会保障検討委員会が12月19日に中間報告をまとめている。その中で医療費については75歳以上の窓口負担を現在の現役並み所得者3割とそれ以下の1割の負担に対し、新たに2割負担を設ける案が検討されている。そのほかにも大規模病院での紹介状なしについては、病院の規模を400床以下200床に引き下げて料金の引き上げも俎上にのっている。しかし、これらは収入の増加による財政負担の軽減である。財政の基本は「入るを量りて出ずるを制す」であり、出ずるについても検討すべきである。

“国民医療費の推移と年層別医療費の分布”

 高齢化に伴う医療費の推移は下記の通りである。一人当たりの医療費は30年前には約16万円だったのが、平成29年には約34万円と2倍程度となっている。

 国民一人当たり医療費

年度 平成 1 平成10 平成15 平成20 平成25 平成29
医療費 160.1千円 223.9千円 247.1千円 272.6千円 314.7千円 339.9千円
比率 100 122 140 154 170 212

「平成29年度 国民医療費の概況」

 その増加の大きな要因に人口の高齢化がある。私自身が70歳を過ぎたあたりから、それまで経験しなかった体調の変化があった。両足の静脈瘤手術、心臓の不整脈手術、そして今月は検便の結果が2件とも陽性のため大腸がんの検査を行い、ポリープの摘出を行っている。高齢者の増加に伴う医療費の増加は、長年酷使した身体からのSOSなのかも知れない。

 年層別の1人当たりの医療の比較は下記の通りとなっており、そうしたことの現れとして、65歳以上の医療費が45歳~64歳の約3倍となっている。

 平成29年度年層別一人当たり医療費

年 層 0~14歳 15~44歳 45~64歳 65歳~ (70歳以上 75歳以上)
医療費 162.9千円 122.7千円 282.1千円 738.3千円 (834.1千円 921.5千円)

    「平成29年度 国民医療費の概況」

 そうした観点から医療費に占める後期高齢者の割合を見てみると、10年間で4.4%上昇している。人口に占める後期高齢者の割合も平成18年が9.5%から平成28年には13.3%と、医療費と同じ増加率となっている。2025年には団塊世代が後期高齢者となることから医療費の増加は避けられず、国の財政圧迫が予想される。

“惰性的な診察の見直しを”

 私は現在血圧とコレステロールを下げるための薬をもらいに28日ごとに通院している。3年程前は14日ごとだったのを、主治医に「特に変化のある病気ではないので4週間にして欲しい」と話をして現在の28日となった。

 私が通院している医院は、午前60人で午後も60人診察しているが、ほとんど3分以内の診察である。看護師に名前を呼ばれて診察室に入る。主治医がパソコンを見ながら「変わったことありませんか」と聞き、「特にありません」と応える。「それでは血圧を測ります」と言って血圧を測り、「135と75です。問題ありませんね」と診断結果を伝え、「それではいつもの薬を出しておきます」で診察は終わる。大体1~2分程度で、再診料・医学管理費等・投薬で7,350円である。

 待ち時間に年配者の診察を見ていると、時には長い時間の人もいるが、同じようなペースと支払いである。当初の14日間隔を28日に延ばしたが、42日間隔でも問題がないように思える。こうしたことから医者が患者に受診期間を選択させれば、医療費の削減は可能になる。但し、症状が悪化した時は当然診察に行くことを考えて、症状にもよるが惰性的な病院通いを見直ことを検討すべきである。更に支払基金のビッグデーターを活用して、診療間隔や不要な診療がないか等をチェックすれば、支出の削減を行うことが出来ると思われる。

“治療薬についても検討を”

 渡された薬が飲まれず残されていることも問題になっている。

 厚生労働省は「医療保険財政への残薬の影響とその解消方策に関する研究」(平成27年度)の中間報告を発表している。訪問業務実施薬剤師について調査を行った結果、1,890薬局から5,447名の患者データーを収集(70代以上が約90%)した結果、患者1人あたり4,885円の残薬が確認されている。新聞の投書欄には「自宅療養で母が癌で亡くなった。片付けしていたら段ボール箱1個に入るくらいの薬が残っていた」や、「自己負担割合の低い高齢者はチョットしたことで受診し、多くの薬をもらいがちでジェネリックを嫌う」という声があった。

 患者の症状を一番知っているのが医者であり、医者が医療費削減に協力することが最も重要である。更に薬局も残薬を確認して、無駄な支給を減らす。患者は残っている薬を正直に話すことが医療費削減につながることになる。

 医者、薬剤師、患者の三位一体の意識改革を促すことによって、医療費の削減は充分可能である。                                    以上


石山浩一
特定社会保険労務士。ライフビジョン学会代表。20年間に及ぶ労働組合専従の経験を生かし、経営者と従業員の橋渡しを目指す。   http://wwwc.dcns.ne.jp/~stone3/