週刊RO通信

野党根性で政治を揺さぶれ

NO.1318

 イギリスのジョンソン首相の評判がすこぶる悪い。フィナンシャルタイムズ社説「英国の民主主義を汚す議会閉会」(8/29)によるジョンソン氏批判は、日本流で表現するならば、もはや堪忍袋の緒が切れたという内容である。

 ――10月31日のEU離脱期限まで余裕がないのに、ジョンソン首相が議会を5週間閉会する、前代未聞の暴挙に出た。政府の施政方針を示す女王演説の前に閉会するのは通常1~2週間である。

 ジョンソン首相のブレグジット政策への反対が議会の過半数を超すと見込んで議会を開かない。議会封じの無謀な戦術に出たことは憲政に対する破壊行為である。こんなことをやるのは空前絶後だ。

 いま、圧倒的に優先すべきは英国の民主主義を守ることである。そのために不信任案投票でジョンソン政権を倒せ。さもなくば首相官邸に専制君主を抱えていることになる。――(要旨)

 英国紳士の論説の見本のようなフィナンシャルタイムズが、まさにジョンソン首相に痛罵を浴びせ、官邸からの追放を主張した。いわんとするのは英国的熟議の民主主義が危険だというにある。

 わが国の議会政治を顧みれば、安倍長期政権なるものはジョンソン流どころではない。まともな答弁はせず、討議時間を浪費させ、野党の審議要求があっても応じない。言いっぱなしの聞きっぱなしが常態化している。

 もちろん、与党が数において圧倒している。与党はたびたびの選挙で勝っているのだから国民的支持があるとうそぶくのも必然だろう。しかし、与党政治に違和感をもつ国民は決して少数派ではない。

 いわゆる政治的無関心、アパシー、政治に対する不信感からくるあきらめや無力感が、国政選挙に対する参加意欲を貶めているのは疑いない。まっとうな民主主義をつくるには、気づいたものがイニシアチブをとるしかない。

 民主党が政権を執ってから10年になる。政権運営に失敗して下野し、その後も精彩を欠いている。立憲民主、国民民主などの議会内統一会派の動向も国民の万雷の支持とはいかないが、なんとかしたい思いは大事だ。

 統一会派が旧民主党のOB会だという揶揄もある。しかし、いまの政治に疑念や不満を抱きつつ、対抗勢力たる野党を育てたいと考えないのであれば、所詮は日和見主義、大勢順応主義にすぎない。じたばたせねばならない。

 確認しておきたい。いま、わが国の民主主義の事情に対して違和感や危機感を抱かないとすれば、それは民主主義を知らない敗戦前の多数派と同じである。新しい革袋になったが、古い酒がそのまま残っているからである。

 鎌倉幕府以来、封建社会は明治までざっと680年続いた。江戸幕府の260年間はもっとも過酷な封建社会であった。明治から敗戦までの78年間は、後にいくほど全体主義が強まった。いわば封建思想は760年続いた。

 権力の圧制や桎梏から逃れただけでは民主主義の人ではない。民主主義は、自主的・自発的精神が育たなければ前進しない。現実に政治的無関心が社会の気風だとすれば、「いまだ民主主義ならず」である。

 民主主義精神の後進国においては、ひとたび権力掌握すれば好き放題の政治ができる。目下の安倍内閣・与党が展開している通りである。このような政治の安定はごめんである。めざすは、政局の不安定にある。

 政局が不安定になれば、議会での論議に活が入る。まともな答弁ができないような首相や大臣は必然的に放逐される。だから、野党が議会内統一会派をつくり、人々の耳目を集める議論をするというのは全面的に正しい。

 メディアは、与野党激突すれば、野党は大人になれと言う。妥協すれば、だらしないと言うだろう。意味のある激突、意味のある妥協、それこそが民主主義における議会政治の本懐である。

 議会内統一会派を作ったからといって一枚岩になる必要はない。一枚岩を前提するから動きが取れなくなる。会派内だろうが、会派外だろうが、ジャンジャン議論を展開すればよろしい。まず、堂々たる議論をやらねばならぬ。

 二大政党などと御託を並べる必要はない。まずは、基本的人権を否定するような政治家を国会から退出させねばならない。野党議員諸君は、議会を言論で揺さぶれ。それが政局を不安定化して、政党政治を前進させる。