論 考

世界が直面する危機

 1960年前後に、多国籍企業(Multinational Corporation)の動きが経済学者によっていろいろ検討されるようになった。

 当時、多国籍企業とは、A国に本拠をもち、外国の法律と慣習のもとで仕事・生活する企業というおおざっぱな定義がなされていた。

 その後の動向をみると、多国籍企業は、もっぱら世界的な立場で自国内など問題にせず行動する流れになった。

 一方、資本主義が生き残るためには、福祉国家をめざすというのが歓迎される考え方であった。

 福祉国家は、国家が積極的に社会福祉制度を充実し、人々の所得水準・栄養・住宅・健康並びに教育について最低水準を保障し、国家の財政・金融政策によって失業をなくし、不況・独占の弊害・所得の不平等を除去し、政治的には議会制民主主義を尊重するものである。

 しかし、資本の自由な国家間の移動は、資金を各国間に最適な状態で配分しないし、各国において完全雇用を確保するものでもない。

 たとえば、戦前の英国に代って世界経済のチャンピオンになった米国が福祉国家として大国になったかと考えてみると、世界一の格差大国であって、とても福祉国家というイメージは沸かない。

 米国の発展のパターンは、軍事支出と対外援助で基軸通貨であるドルを世界中に撒布し、それによって発生する有効需要を自国企業が活用する。米国企業の利潤が潤沢になっても、米国の福祉社会はまったく前進しない。

 それどころか、ますます拡大の一途を辿る巨大な格差社会と化して、トランプのようなおかしな大統領が登場するに至った。

 そして今度は、自国内でうまく行かない責任を外国に押し付けて現状を突破しようという乱暴かつ破天荒な政策を展開している。世界が大きな危機に直面していることだけは疑いがない。