月刊ライフビジョン | コミュニケーション研究室

この国の政治はわからぬことばかり

高井潔司

 缶コーヒーのCM風にいうと、私のような宇宙人には「この国の政治は理解できないことばかり」だ。

 その1。米朝首脳会談を前に、安倍首相が訪米し、米朝首脳会談で拉致問題に言及してくれるよう申し入れ、盟友トランプ大統領の承諾を得た。この“外交成果”によって、モリカケ問題、文書改ざん問題、防衛省の日報隠し問題などで支持率回復を狙ったそうだが、財務省の事務次官のセクハラ辞任が重なり、狙い通りに進まなかったと解説されている。

 だが、米朝会談でトランプ大統領が拉致問題に言及したら成果なのだろうか。拉致家族にとって、成果とは拉致された人たちが帰国することであって、会談で論議されることではない。拉致問題解決を公約の一つとして政権の座に着きながら、何の手も打たないまま、結局、“他人のふんどし”で相撲を取るふりをして、問題をごまかそうしているだけではないか。それをあつかましく、外交成果と言い、支持率挽回の材料にしたいというのは、あまりにもあさましい。

 外交には戦略が必要だ。制裁や実力行使の脅しだけでなく、硬軟取り混ぜ、成果につなげていく必要がある。この国の外交にはまるでその戦略が感じられない。数か月前まで、まるで極悪非道の悪魔、“リトルロケットマン”扱いされてきた金正恩は、いまやトランプ大統領をして「オープンで立派」と言わしめている。こちらの方がよほど戦略的と言えるだろう。独裁国家でこんな戦略を練りだすとは、とても日本のマスコミが描いてきた狂人やおバカではできない相談だ。

 その2。女性活躍社会をスローガンにする内閣の重要閣僚である麻生財務相は、セクハラ問題で辞任した次官の処分問題で「週刊誌報道だけでセクハラがあったと認定して、減給というのはいかがなものか。はめられて訴えられているんじゃない 」と他人事のような発言。これでは、言い訳どころか二次セクハラではないか。「事務次官にも人権がある」とは、まず女性記者の人権を守ってから言ってもらいたい。次の次の次官候補という官房長まで「名乗り出ることがそんなに苦痛か」などと発言する始末だから膿は深い。後任の次官も、国税庁長官も決まらないのは当然だろう。

 その3。現職の自衛隊幹部が東京・永田町の参議院議員会館の前の路上で、民進党の小西洋之参議院議員に対し、「お前は国民の敵だ」などと繰り返し罵声を浴びせたという。 なんだか戦前の軍国主義復活を思わせるような暴言でびっくりしたが、その反応は単純過ぎる。これにもいろいろ考慮しなといけない背景がある。

 このところ、日報隠しの問題で、「シビリアンコントロールが危うい」と防衛庁や自衛隊の幹部が矢面に立たされている。だが、宇宙人の私に言わせれば、日報隠しは現場の暴走どころか、現場はきちんと日報を作成していたのだ。シビリアンであるべき政治家の指示か、その政治家への忖度のために日報隠しをやったまでであって、シビリアンコントロールを犯したわけではないだろう。戦闘地域を戦闘地域でないと言い張り、危険地域に自衛隊を派遣した。現地で、先頭の危険にさらされたのは自衛隊員だ。その通り報告したまでなのに、政治家のまやかしのつじつま合わせに利用され、批判を浴びせられてはたまらない。罵声を浴びせた自衛隊幹部も、相当ストレスがたまっていたのだろう。だが、彼のもう一つの、より大きな過ちは、野党議員を罵ったことにある。相手が違うでショ。

 決める政治などと言いながら、口先だけの公約やまやかしの政策ばかり。そのほころびが出てきても、自らの過ちを認めず、責任転嫁を図るこの国の政治家いやもう政治屋のレベルだ。この政治不信をいつまで放置していたら、国民のいら立ちを高め、それこそ実力によって解決を図ろうとする危険な勢力さえ生まれかねないことになる。


高井潔司 桜美林大学リベラルアーツ学群メディア専攻教授 1948年生まれ。東京外国語大学卒業。読売新聞社外報部次長、北京支局長、論説委員、北海道大学教授を経て現職。