論 考

塗装工

 わたしが25歳で組合支部の書記長をやったのは1969年だった。委員長が市会議員に立候補することになり、組合員は2,000人ほどおられた。当然ながら組合員の応援だけが頼りだ。

 委員長を一所懸命応援してくれた仲間の1人は塗装で働く組合員だった。彼が、内緒で——といっても、実際は皆が知っていて知らぬふりしていたのだが——鉄板(薄板15㎝×45cm程度)に「○○○○連絡事務所」と書いた看板を500枚くらい作ってくれた。これを支持してくれる組合員の自宅に掲げてもらった。

 あまりの手際のよさに「すごいなあ!」と感謝したら、彼は「俺は塗装工さ」と一言。わたしは思わずジーンときた。すでに当時、職人だとか、職工だという言葉は一般には使わず。気風のよさも嬉しかったが、「塗装工」という言葉に目からうろこが落ちた。

 世間では、ペンキ屋の仕事にはごまかしが少なくないという風潮があった。もちろん、わが社は大企業であり、製品の塗装は厳しく、極めて立派なものである。その仕事を担っているという自負、プロとしての誇りと責任を担っているからこそのさりげない言葉である。

 たまたま彼とわたしは同年齢であった。いま、どうしておられるかなあ。