論 考

我田引水

筆者 小川秀人(おがわ ひでと)

 衆議院法務委員会における「婚姻前の氏の通称使用に関する法律案」、いわゆる選択的夫婦別氏(姓)問題に関する質疑を配信動画でフル視聴した。三党の法案提出者は勿論、それこそ多様な有識者が参考人として、それぞれの立場で意見を述べられていたので気が付いたことを記しておきたい。

 ひとつは、アンケート調査と称するデータの使い方である。自分たちに都合の良い設問をしつつ回答を引き出しておいて、それをもって、いかにもみんながそう言っているかのような主張に違和感を覚えた。推進派にこの手合いが多いようだ。これには参考人の椎谷哲夫氏と竹田恒泰氏が、やや皮肉交じりではあるが礼節をもって所見を述べている様子が好印象で同感。

 本来データは、使いようで有用な客観的事実となり得るはず。反面、使う側の意図によっては薬にも毒にもゴミにもなるし、印象操作が容易になってしまう。もっともこの過度ともいえる情報化社会にあって、そんな低レベルの印象操作に簡単に騙され同調する方もどうかとは思うが。

 もうひとつは、「聞いた話、第三者から言われた話」に寄りかかる人が多いこと。誰々がこう言っている、という類の一見権威がありそうな他者の口を借りて自分たちに都合の良い主張をし、これまた全体がそうであるかのように印象付ける手法である。こちらも推進派に多く見られるようで面映ゆい。

 いま自分が見ている映像は本当に国政の場か? と見紛うような議論が展開されている。揚げ足の取り合いとしか思えない、重箱の隅をほじくるような発言の応酬が続く。中でも某党の法案提出者の話法は、相手の考えや意見を歪めて引用し反論する典型的な「ストローマン(案山子)論法」ではないか、とさえ感じられる。さらに経団連にいたっては、「国連から勧告を受けている! 今回が4回めで人権問題!」だそうだ。国連にあたかも御稜威があるかのような物言いの、しかもドヤ顔付きで(笑)。

 もっとも経団連は、過去に事実誤認に基づくピントのズレた見解を公表してしまい、指摘を受けて訂正するかと思いきや、体裁が悪いのか結局のところ間違いを認めていない。それどころか、当初は不便の解消が法改正の目的であったにもかかわらず、開き直ってアイデンティティーの問題にすり替えてしまう有り様である。さすがは現代の産業報国会「政労使会議」の当事者かと考えれば、さもありなんといったところか。

 大衆は醒めている。大事なことではあるが、生活者の優先順位はそこではない。