筆者 奥井禮喜(おくい・れいき)
麝香(じゃこう)の香りは強い。まるで、名は体を表すといわんばかりに、E・マスクの露出度が世界的に拡大している。とはいうものの、芳香ならぬいかにも生臭いのが気がかりである。
いずれにせよ、トランプとマスクの二座頭による興業は非常に騒々しい。トランプがMAGAで、アメリカを押し出して騒動を起こす。マスクはその遊軍と表現するべきだろうか。こちらは、アメリカにとって具合が良くなるように他国の中に手を突っ込んでかき回す。
ところで、癌の治療にワクチンを使った点滴療法がある。
このワクチンが期待される効能は、体内でがんと戦う細胞を強化する面と、癌細胞そのものを叩く面の二つがある。うまくいけば、癌細胞は相手の防御壁と、自身が直接やられて退散するという目論見である。
ただし、この治療法は患者の体力を非常に奪う。極端なケースでは患者が動けなくなってしまう。どうも、この治療法は必ず効能ありとはいかないようで、筆者が聞いたところでは、癌をやっつける前に体力が落ちてしまったという話に納得できる。
まあ、こんな話は横へ置くが、「骨牌・麝香」のコンビネーションが果たして有効かどうか。疑わしいと言いたいのである。
超有名人ではあるが、マスクも本当のところ何を考えて行動するのか、他人としては容易にわからない。彼の発言を拾って少し考える。
マスクいわく、人間には結局のところ人類を増やそうとする考えと、人間はよろしくない存在であって絶滅するべきだという考えの二つがある。マスク自身はもちろん前者であって、「なせばなる、為さねばならぬ何ごとも」精神で敢闘するという人生観、世界観みたいである。
仕事におけるマネジメントスタイルにおいても、じっくり計画を立てて、周知徹底してすら走るのではなく、自分がひらめいたら突き進む、ダメなら修正して突き進む。だから、いわゆるパワハラなんてものは必然的に彼の行動を飾っているようだ。
たぶん、いままで成功してきたのだから絶対的に正しいと本人は確信しているに違いない。
これをマスクの政治的見識においてみると、世界をよくするためにはよくするための精神と行動が必要なのであって、いわゆるリベラル、左翼的人士のように、ものごとに懐疑心を押し出すようではいかん。個体の人生は短いのだから、なにがなんでも現状膠着して動きにくい事態を動かさねばならない。
しかも彼は自称リベタリアンだから、人間の発言行動には絶対的自由を求める。その手段としてXを最大限駆使するつもりだ。
筆者が思うには、懐疑心は遅疑逡巡のためにするのではない。世の中を動かすには、物事を納得できるまで、よくよく考えるための精神態度である。事態を動かせばいいとして、嘘も誇大宣伝もなんでもありの弁舌を揮うほうが危険極まりないと思うが、希代の実業家はそうではないらしい。
金も持った。情報伝達システムも握った。アメリカ大統領と大の仲良しで、アメリカのみならず、世界を動かす権力・権威も手にした。
たまたま、欧州においては毛嫌いされているが、極右勢力が状況を動かす最先端にある。リベラルや社会民主主義勢力は懐疑心が強いだけではなく、事態を動かすことに熱心ではないし、力がない。行き詰ったアメリカや世界にとって大事なことは、なにがなんでも事態を揺さぶり、動かすことだ。
なるほど、事態を動かすということに限れば、極めて効率的な考え方であるが、自由のみを全面的に押し出すだけでは紛争を大きくするだけだ。Aの自由があればBの自由もある。自由は大事だが、Aだけの自由になってしまうと、結果的には弱肉強食の世界でしかない。
みんなが自由に思考し活動することはとっても大事であるが、それを主張するAが、自分以外のB、C、D—-について考えが及ばないのであれば、本当の自由主義者ではない。それは単なるワンマン主義であり、力のあるものが世界を分捕り合うだけの話であって、平和どころではない。間違いなく世界を混乱と混沌へ放り込む短慮である。
なんだか、幼児性が見えて仕方がない。