論 考

トランプ的視野狭窄

筆者 奥井禮喜(おくい・れいき)

 トランプが、カナダ・メキシコに25%、中国に対しては10%の追加関税をかけると騒いでいる。

 アメリカ・カナダ・メキシコ協定(USMCA)で、現在は無関税で交易しているが、2026年に改定時期を迎えるので、それに対する前宣伝である。メキシコ経由で移民、合成麻薬フェンタニルが流れ込んで、アメリカ人を麻薬漬けにしているから、それを止めさせるためだとする。

 メキシコの輸出の80%はアメリカ向けだ。とくに、自動車の外資系メーカー、部品メーカーが多い。野菜・果物など農産物はアメリカ市民の食生活を支えている。さっそく、GMの株価は9%下がった。

 カナダの輸出の80%はアメリカ向けだ。アメリカは原油・天然ガス・電力・建設資材を輸入している。

 アメリカは中国から、スマホ・パソコン、各種消費財を輸入している。

 関税を高くすれば、結果はアメリカの人々の懐を直撃する。たとえば、ガソリンは1ガロン25セントが75セントに上がるとの試算もある。

 完全に輸入をシャットアウトできない国際関係において、貿易戦争に勝利者がいないのは定説である。貿易が盛んになることこそが国際平和の象徴だ。政治家が率先して貿易を捻じ曲げるのは、話にならない。

 トランプはバイデン政権がインフレで人々を苦しめたと扇動したが、トランプ時代からハイパーインフレであったものを抑え込んだのはバイデン政権である。今度は、高関税でまたまたインフレに向かわせようというのでから、なんともズレている。

 高関税で移民や薬物中毒問題が解決するわけがない。とくに、薬物はアメリカの社会が病んでいる象徴であって、そとから薬物が入ったから薬物中毒が蔓延したのではない。

 トランプ政策の特徴は、ショーアップにこそある。悪いことは外から来ると決めつけてしまえば、話は非常に簡単だ。そして、トランプ的偏見で支持者は盛り上がる。ただし、さらにインフレで生活困窮者が増え、薬物中毒もまた増えこそすれ減るわけがない。

 トランプはなんでもビジネス的取引で行動するというが、彼のビジネスモデルはなにがなんでも自分が儲けるというにある。ショーアップされた政策にしても、全体の整合性を欠くならば、またまた新たな混乱を起こすはかりである。

 トランプ流が順調にいけば! 2026年の中間選挙は共和党の沈没を招くだろう。