筆者 司 高志(つかさ・たかし)
兵庫県知事選挙は注目すべき選挙結果となった。集約すれば、日本の縮図とも呼べる。
選挙結果をみると、斎藤氏が111万票、次いで元尼崎市長の稲村氏が97万票、以下清水氏と続く。立候補者7人での選挙戦となった。巷で言われている通り、乱立気味に候補者が増えた場合は、現職有利である。
実はこの結果について参考とすべき選挙があった。さきの東京都知事選である。石丸氏がネットを利用する新手法とでも呼ぶべき選挙戦を展開し、小池都知事には及ばなかったものの、知名度や基礎票のある蓮舫氏を破った。今回の選挙戦において、斎藤氏は石丸氏の手法を取り入れているとネット上では言われていた。
ここで横道にそれて、東京都知事選について少々述べておきたい。
蓮舫氏は、自らの武器である「批判」を自ら封じたのは痛かった。私は将棋や囲碁を趣味にしているので感じるのだが、大一番で得意戦法を封印するのは得策ではない。得意戦法をぶつけていくのが通常の作戦である。
しかも小池都知事とは、大差がついている状況なので、普通の戦い方では追いつかない。ここで、批判力を生かして大勝負を仕掛ける手があった。たとえば、他の候補者と対談し、いままでの小池都知事の施策は有効ではなかったという、動画をネットで流すことである。
小池都知事には基礎票で劣るから、通常の戦法でひっくり返すのは難しい。そこで、小池都知事の票を削るという策に出るわけである。不在者投票では選挙終盤になるほど小池都知事の得票率は下がっている。都知事の施策が有効ではないという批判が効いてきたと推定される。
将棋や囲碁では、負けに近づいている側は奇策を仕掛ける。そのまま負ける道を歩むよりも、一か八かの奇策に打って出て、相手のミスを誘うのである。コンピュータが相手なら感情がないので、こういう戦法は通じないが、人間は楽に勝ちたいと思うから、意表を突かれて思わぬ落とし穴にはまることもある。
さて、今回の選挙に話を戻すと、ネット上で動画の批判や攻撃の破壊力は時として想像の範囲を大きく超えることがある。ネット上での批判や攻撃している動画の威力を理解しておかないと、今回の選挙結果は読み解けない。
その前に私には小さな違和感があった。小さな違和感だったので、ちょっと変だな程度で見過ごした。違和感とは、百条委員会の結論を待たないで、不信任決議がなされたことである。なお、百条委員会は、自治体地方自治法第100条の規定による地方議会に設置される強い調査権を持つ委員会である。県には、第三者委員会も設置される予定もあったが、こちらはまだ始動してない。百条委員会の結論が明らかにならないまま、選挙戦に突入した。百条委員会の結論が出ていれば、情勢は違ったものになったと思われる。
次に事実関係を整理する。
私は、兵庫県知事によるパワハラはあったと推定している。なぜなら、百条委員会で100人を超える人が、直接パワハラにあった、もしくはパワハラの様子を直接見た、とアンケートで情報を寄せている。5人や10人なら口裏合わせも可能かもしれないが、100人を超える人間が、直接パワハラを受けたとか、見たりしているというのだから、全くの事実無根ということはないだろう。
百条委員会で斎藤知事自身が行為を認めているものもある。ただし、行き過ぎた行為というような感じで、本人は叱責という言葉を使い、パワハラとは認めていない。
他方、通報文を作った元県民局長の押収されたパソコンから、不倫の形跡が見つかったようである。元副知事が百条委員会で証言しようとして委員長より発言を差し止められているが、無視して発言しようとしたので、委員会は中断された。百条委員会で、偽証をすると罰則があるので、わざわざ自ら嘘の発言をしたとは思えない。おそらく不倫はあったものと推定する。
百条委員会は秘密会として行われた。ところが、元副知事の発言の録音が流出している。これはインターネット上で拡散され、反斎藤側に不都合な情報が隠されているとの言説が広がった。
だが、百条委員会委員長が発言を制止したのは、斎藤知事等の行為についての通報が、公益通報か否かが重要で、通報者が不倫等の社会的に不適切な行為をしたかどうかは、通報内容の審議とは関係ないと判断したためである。
ここで稲村氏側のネットに対する認識が大いに関係してくる。今後はネット監視班のようにネット上の異常を検知する行為が必要である。そして異常が検知されたら直ちに反論する対応が必要になる。それも攻撃的な反論である。
この場合なら、秘密会の百条委員会の録音を持ち出すような人を罰する必要がある。たとえ罪・咎のある人が述べたとしても、事実には影響を与えない。例えば、地球は丸いという科学的事実は誰が述べたかによらず真である、などとわかりやすい反論をする。こういう対応ができなかったので、蓮舫氏や稲村氏は、どうして敗れたのか、わけもわからず負けてしまった。
ただし、普段からネット上のフォロワーと呼ばれる人を、確保しておかなければならない。反論しても自分の情報を見てくれる人がいなければ、反撃力が大きくならない。
この原稿を書いている時点では、斎藤知事側は、選挙戦用インターネット利用を業者に依頼し、準備を進めたようだとの疑念が示されている。
業者が手の内をインターネット上で公開しているが、斎藤氏側は、ポスター、チラシの作成しか発注していないと意見が食い違っている。インターネット利用を発注しているとすると、公職選挙法に違反しているのではないかという疑念が生じてきている。
N国党のT氏も当選する気がないのに、立候補し、斎藤氏側を応援したことが公職選挙法に違反の可能性を示唆されている。
パワハラをしたとされる斎藤氏、斎藤氏に公益通報かもしれない文書を渡した人物、インターネット利用を行った業者、N国党T氏などかなりブラックな人が集合している。
まさに、日本全国で起こっている不適切事案が大挙して押し寄せてきた状況である。特にN国党のT氏がぶっ壊したのは、NHKではなく、兵庫県であり、公職選挙法という観点に立てば、日本国がぶっ壊されようとしている。
いずれにしても兵庫県知事問題については、まだまだ決着はつきそうにない。