筆者 奥井禮喜(おくい・れいき)
トランプ人事が次々に伝えられるが、人物情報によれば、いずれもトランプへの忠誠心第一で、まこと古色蒼然、マンガチックでもあるが、気色悪い。
組織理論においては、リーダーの周辺をイエスマン(茶坊主)で固めるのは最悪の人事である。トランプという人物の幼稚極まりない性質が、これほど露骨に展示されるのは、いやはやなんともの感である。
二度目の就任だから、世間としてはせんかいの反省が生かされると思うが、これではますます自己の殻へ閉じこもるようである。
トランプはせんかいの布陣で自分に不都合があったから、それを考慮して、こんどは徹底的に自分に対する忠誠心第一で固めている。
人は、それぞれが自分なりのバイアスを抱えている。個性というより癖だ。癖というものは、よほど慎重に統制しないと場違いな失敗を発生しやすい。こんかい、指名されたメンバーは、自身のバイアスに加えて、トランプ絶対というバイアスが重なる。
いい仕事とは、ボスが喜ぶことであり、いかにボスを喜ばせるかが勝負である。ところが、それぞれのポストは、それぞれの組織が背景にあって、組織を効果的に動かすためには組織メンバーが最大の力を発揮するようにマネージする必要がある。
もちろん、メンバーも直接の上司がボスのイエスマンだということは先刻承知であるが、彼らのプロフェッショナルはボス由来のものではない。
プロフェッショナルに反するような意思決定をたびたび繰り返していると、自分自身を否定するのだからたまらない。直接の上司との間のストレスが高まる。これは、ボスから距離ができるほど大きい。
メンバーの上司である茶坊主たちは、一方で、ボスに対する忠誠心競争の渦中におかれる。自分の組織メンバーたちの羽振りをよくしていき、メンバーからの高い評価をえるためには、わが組織こそが忠誠心競争の覇者足らねばならない。
組織のメンバーたちは上司に対して受け身なのではあるが、上司たるものとしては、忠誠心競争に勝ち残ることが非常なプレッシャーになる。
実は、せんかいのトランプチームもお仲間ばかりであった。それが瓦解したのは、ボスに対する忠誠心が低かったのではなくて、高かったからである。忠誠心競争がチーム崩壊の最大原因であった、とわたしは分析する。
ところが、トランプはそれにはまったく無頓着で、ひたすら自分に忠誠を尽くす連中を集めたのだから、トランプチームは大きな地雷を抱え込んだようなものだ。
無理が通れば道理が引っ込むというのがトランプの常道である。トランプ自身で無理が通らぬことに気づけば問題は乗り越えられるが、指名した茶坊主たちが無理を通そうとして壁に衝突した場合、トランプは茶坊主を督励・叱咤激励するだろう。
茶坊主たちは、無理を許容すればするほど、ボスの無理難題に頭を抱え込む。問題を解決すべきか、自分に対するボスの覚えめでたきを優先するべきか。前者を選択すればボスとの軋轢は避けられない。後者を選択すれば、問題解決どころか、ますます事態を複雑厄介な方向へ押し込んでしまう。
トランプが、「君子豹変」するだろうか! 茶坊主で固めてしまうほど、問題の妥当な解から遠のく危険性が高い。危ないのである。
トランプのアメリカとのお付き合いで、各国首脳が茶坊主への道をたどるのではなく、妥当な解を徹底的に考える「脳」であるかどうか。これもまた問われる。