論 考

兵庫県知事選挙を注視せよ!

筆者 司 高志(つかさ・たかし)

 来る2024年11月17日(日曜日)に兵庫県知事選挙が行われる。この選挙結果は、その影響が全国に波及する可能性があるので注視しておく必要がある。何が、どうして全国に波及すると考えるのか、そう考える理由について経緯とともに語っていきたい。

 今回の県知事選挙は、2024年9月19日、兵庫県知事に対する不信任決議案が県議会で全会一致で可決されて、斎藤知事が失職したことにより行われている。

 なぜ県知事に対する不信任案が提出されたのか。

 ことの発端は、兵庫県の元県民局長が、マスコミ等に斎藤知事に関する公益通報をしたことによる。

 この公益通報が、経路は不明だが、斎藤知事の手にわたり、知事が元県民局長を懲戒処分した。公益通報の内容は、県知事の職員に対するパワハラ、出張等で企業に接触する際など、ことあるごとに、PRするからと称して企業の製品をねだっていたことなどである。

 通報された当事者は、斎藤元県知事、退職した元副知事等である。ここで問題となるのは、公益通報の内容を調査したり、懲戒処分したりした側が、公益通報された当事者だったことである。

 本来は、公益通報をしたことにより、職場内で不利な扱いを受けないようにするという法律が存在しているので、公益通報を行った者は、この法律の適用を受けて保護されるべきである。(公益通報者保護法)

 ところが、斎藤元知事は、マスコミ等に通報した内容がでたらめであり、このため公益通報に該当しないと記者会見で述べている。実際には、記者会見では、嘘八百との表現を用いた。

 マスコミ等に通報した元県民局長は、斎藤元知事に公益通報ではないと判断されたことから、改めて、県庁内部の公益通報窓口に通報した。

 本来であれば、マスコミ等に通報した時点で、公益通報に該当するかは断定できないとしても、懲戒処分は行うべきでないし、保護対象とすべきである。また、県庁内部に設置された窓口に通報が届いた時点では、保護対象とされるべきである。さかのぼって懲戒処分を取り消すことはできないとしても、県庁窓口通報以降は、保護対象にならなければならない。

 ところが、あろうことか、誰が公益通報したのかを特定するため、内部調査を始めてしまった。情報の収集の過程で、元県民局長は業務用パソコンを押収されており、この中に業務以外の個人的な通信内容が含まれていたようである。

 マスコミ等への通報が、公益通報に該当するかの断定は、この時点では難しいにしても、公益通報したかもしれない人の洗い出しは、先の公益通報者保護法の法令趣旨に反する。法令は、通報者の保護を求めているのであるから、通報者の洗い出しや特定をしてはいけない。

 ここで斎藤氏は、法令を読み込んで、この法令を逆利用するロジック(論理展開)を組み立てた。すなわち、通報内容には、真実相当性がなければならないとされているが、通報は誤った内容を含んでいるので、真実相当性が認められず、公益通報には該当しないとした。

 私は、この法令の逆利用が最大の罪だと思っている。このロジックがまかり通ると、通報内容がほとんど正しいとしても、一部にでも誤りがあれば、それは公益通報ではなくなってしまう。

 通報する側は、すべてお見通し状態で通報文を作るわけではない。どうも怪しいとか、何か不正なことをしているのではないか、という疑念に基づき作るわけだから、類推や誤りを含んだものにならざるを得ない。

 今回の選挙で斎藤氏が当選してしまうと、公益通報に対する斎藤氏の判断は是であるという方向性が与えられることになり、以後、公益通報が非常にやりにくくなる。

 当初は、維新の会は斎藤元知事の側に立っていた。また、元県民局長が死去する原因とも考えられた元県民局長のパソコンに存在した業務外の文書の公開を迫っていたりした。とことが、維新の会の他の選挙区への影響の懸念もあってか、維新の会は変心し、不信任案に賛成した。まさに維新変心であった。

 斎藤元知事は、元県民局長の通報が公益通報に該当する場合、法令に反する行為をした可能性が高い。そしてさらにもう一人、法令に違反している可能性がある人物がいる。

 それは、斎藤元知事に元県民局長の通報文を渡してしまった人物である。公益通報文であった場合、その文書を通報の対象となっている元県知事に渡してよいはずがない。

 私は、この人物は斎藤元知事と何らかの関係があり、確信犯的に斎藤元知事に本件文書を渡したと考えているが、「公益通報とは判断できなかった」、「怪文書なので対処したほうが、県のためにはよいと思った」などと言い訳をしそうである。だが、本件は「公益通報とは知らなかった」で済まされる内容ではない。この人物も追及されるべきである。