論 考

イスラエル内閣の内紛

筆者 奥井禮喜(おくい・れいき)

 イスラエルの戦時内閣を構成する3人の1人、ガンツ元国防相が公然とネタニヤフを批判した。もともと寄り合い所の内閣は、いわば「戦争」遂行という接着剤で考えの違いを封じてきた。

 ガンツは次期首相の最短距離にいるという見方もある。日本的政治感覚でいうなら、禅譲(可能性)を無視して、自分自身の政治的日程に基づいた行動を開始したともいえる。

 6月8日までに回答せよと、期限付きで突き付けたガンツの戦争政策は、人質解放・ハマス解体・ガザ非武装化・ヒズボラに追われた住民の帰還など6項目で、変わり映えしないようでもあるが、米国・欧州・アラブ・パレスチナによる行政府を新設するという項目の意義が大きい。つまり、パレスチナ国家樹立論である。

 首相府は直ちに反論した。――きれいごとだ。このままでの戦争終結はイスラエルの敗北だ。人質を見捨てるものだ。そして、パレスチナ国家樹立論に反対の意志を示した。

 裏では、超正統派ユダヤ教徒を徴兵対象にしないことを持ち掛けているともいう。休戦・停戦すればとりあえずこの問題は避けられる。

 極右のベングビール国家安全保障相は、「内閣解体が狙いだ。ガンツは指導者としては小物だが詐欺師としては大物だ」と、派手な反論をぶちまけた。

 もう1人の戦時内閣構成者であるラビドは、「ガンツが優柔不断だから、いつまでもネタニヤフとベングビールが政権を担っている」として、批判しながらガンツと同様、ネタニヤフ離れを示す。

 イスラエルの新聞は、ネタニヤフが生き残りのために戦争を使っていることを、ガンツが批判したのは注目に値すると論評する。

 戦争の最中に戦争指導部の仲たがいが表面化したのは、たしかに大きな動きである。これが、どういう展開をみせるか。まだわからない。

 ネタニヤフとしては、表面では厳しく反論するにしても、脆弱な内閣だから、完全に離反することは避けたいだろう。しかし、このまま停戦・休戦というわけにはいかない。心配されるのは、もっと戦争を派手に展開して、ガンツの離反論を封じ込めるケースである。

 折からICC(国際刑事裁判所)が、ネタニヤフ・ガラント国防相、ハマスのシンワルに逮捕状を発した。バイデンは、イスラエルとハマスを同列に扱うなんてけしからんと発言したが、世界世論、とくに新興国・途上国のアパルトヘイト(人種差別)、ジェノサイド(集団殺害)に対する嫌悪感は日増しに強くなっている。

 ネタニヤフが効追い詰められているのは間違いない。そして、ここ一番、アメリカが毅然とした態度を貫けるかどうか。