論 考

労働組合の根本を問え

筆者 新妻健治(にいづま・けんじ)

 ―-労働組合の活動がきわめて形骸化している。それは、労働組合の根本を問い、活動において「なぜ? 何のために?」を問うていないからである。ために組織資源の膨大な浪費にとどまらず、その仕事を担っている自分の人生時間の浪費ともなる。だから、組合役員の皆さん、「労働組合とは何か?」という根本を問うところから、自分の仕事に取り組もうではありませんか。

研修講師をして感じたこと

 先日、ある労働組合から研修の講師の要請を受けた。その研修は、一定地域の職域をまとめる非専従役員を対象としていた。研修の開催回数や延べ日数から、組織としては、かなり重要度が高いものだと思う。講師として、お呼びがかかることは嬉しい限りだが、その労働組合の研修のあり方について、疑問点がいくつかあった。

 第一に、先方から提供された資料を見る限り、研修のねらい(目的)には、組織の喫緊の課題が反映されていない。その役職に求められる要点が列記されていたが、どの組織の組合役員にもあてはまるような内容だった。

 無論、モチベーションを高め組合活動に主体的に関わることや、リーダーシップの発揮、コミュニケーション能力を高めること、活動に係る知識を得ること等の必要性を否定はしないが、組織独自の個性がほしい。

 第二に、私の講義のテーマが、なぜこの研修に採用されたのか解らなかった。この組織が、何を組織課題として掲げ、組織総体として取り組んで行こうとしているのか、その戦略・取り組みの要点はどのようなことで、当該役員にはどのような役割や成果を期待しているのか。私はそれを理解し、自分の持ちテーマに沿って、彼らに有効な問題提起をしたかった。

 第三に、与えられた講義テーマは、組織総体が、取り巻く環境変化および構成員の意識変化に対して機能不全になっている状況を変革するというものだ。だから、私は、受講対象は本部三役ないし、最低でも中央執行部と考えるのだが、そうではなかった。

 第四に、この研修への参加を通じて、どのように受講生ないし受講生相互に作用し、それが深化し発展するのか。カリキュラムのコンテンツや運営方法や、その組み合わせ等について、基本的考え方・コンセプトが見当たらない。

 どうも、目的に記された項目ごとに、対応したテーマの講義が割り当てられ、基本は座学として、それを聴講したうえで、受講生が組合活動の目標を設定していくという流れのようだった。

 第五に、私は、研修(OFFJT)が、喫緊の組織課題の解決に向けて有効なものとなるように、受講生の意識変化と行動変容に結び付くこと。また、この受講生から、それぞれの職場の組合員の意識変化や行動変容につながり、運動として拡がっていくことをもって成果としたいと考えるが、そのような意図は汲み取れなかった。

 総体として、この研修は、「なぜ? 何にために?」を問い、よって「どのようにすべきか?」という根本的な考え方を欠く。実施することが目的化し、形骸化しているように思えた。

 余談になるが、この教育・研修の分野が、企業ビジネスとして成り立ち得るのは、労働組合組織の、このようなレベルの問題の表れではないかと思う。また、それを、おおいに許容し、打つ手の無い、労働組合総体の問題でもある。

労働組合の方針一般という問題

 労働組合の方針は、一般的な雛形として、「重点活動方針」を頭にして、「組織活動、政策活動、教育・研修活動、政策・政治活動、共済活動、社会貢献活動等・他」などと分類され、これをもとにして具体的内容が、分野毎に併記されているものが多い。

 私は、多くの組合活動方針に触れてきた。その方針を見るたびに感じたことは、この組織は何をもって働く仲間の協同の課題とし、その解決の取り組みを、どのような戦略と政策をもって実現しようとしているのか、容易に汲み取れない。

 労働組合の方針として、一般的な雛形を踏襲すれば、内外ともに問題を指摘されることなく受け入れられる、ないしは、労働組合の方針とは、こういうものなのだという惰性的な意図しか感じ取れなかった。そんなことだから、組合員の関心も関与も遠のいていく。

 方針一般の一つの分野として、教育・研修がある。これまた誤解を恐れず表現すれば、組織維持・管理のためのテキストデータの伝達機会でしかないのではないかと、私は捉えていた。そのような活動が必要無いと言いたいのではない。それでは、労働組合を組織する意義や、その存在価値が発揮されない。ここにも、労働組合の教育・研修とはこういうものだという、一般的な内輪の論理と、マンネリ化した精神を見るしかない。

戦略遂行のための方針

 定年退職後、私は労働組合の教育・研修をお手伝いする組織に関わっている。

研修講師の仕事をいただいた時には、労働組合の原理、活動の原点など労働組合の基本を受講生に訴え、その組合組織の根本的な問題に気づいてもらえるように努力してきた。

 労働組合の原理とは、労働組合が、働く仲間の「このように生き、暮らしていきたい。」という思いの凝集点としてある。よって、労働組合活動の原点は、その思いのもと、「一人では解決し得ない課題を、集まって、責任を分け持ち、協同して解決する。」というものだ。その基本は、「みんなで話合い、みんなで決めて、みんなで実行する。」という、組合民主主義にある。

 運動するために組織する。組織する意義は、言われてやるのでなく、自分からやる、さらに組合員相互に「高め合い・励まし合い・助け合い」の関係を構築する。かくして、個の総和を超える力を発揮できるようになろう。

 そもそも働く仲間の協同の課題とは何か、その課題解決のための戦略とは、それをどのように働きかけるべきか。働く仲間の現状を変えたいという期待と希望に応え、その主体的な関与を得て、仲間相互の力を有機的に結びつけ、課題解決に向けて、組織の力を発揮できるようにしなければならない。

 だから、方針は、活動方針一般としての雛形の踏襲ではなく、協同の課題解決に向けた戦略の遂行を中核として体系化されたものにするべきである。

まとめ

 私たちの人生には、限りがある。その時間は、自分の人生の目的に向けて、有効に費やすべきである。

 人生の目的は、それぞれがもつ人格の完成にある。それを求めることは、自分がつくっている社会総体を改善・向上させることでもある。また、社会の歴史を踏まえれば、次の世代もそうなるように、自分なりに関わりたいものである。

 自分の持てるものを、自分と社会ために、そして次代に向けて、大いに発揮できるよう、自らに課すことが、自分の人生の目的を遂げる、自分を生きることにつながるのだと考えてほしい。さらに、縁あって巡り合った仕事だから、その根本を問い、その本質を求めて取り組んでほしい。