論 考

人道的危機=人間性の崩壊

筆者 奥井禮喜(おくい・れいき) 

 ガザ全域に戦闘拡大した。

 新聞には、「人道的危機が極限状態だ」「人道的破局の回避が急務だ」という記述が目立つ。

 しかし、戦争とは、はじめから最後まで人道を無視するものである。人の道を踏み外しているのが戦争である。

 戦争をおこなうのは国家である。国家には人道がない。相手国に対してだけではない、戦争するためには自国民が殺戮と破壊の対象である。

 戦争は、一方が100%悪で、他は100%善だというものではない。敵を絶対悪として攻撃するから、こちらの内部では正義になるが、逆に相手もそうである。

 人道を論ずるのであれば、戦争を否定しなければならない。戦争を否定することは、戦争を命ずる国家を否定せねばならない。

 国家と戦争の名において、殺戮と破壊の大なることを称賛するごとき人間性が崩壊することこそ、人道の危機の本質である。

 このような意味からすると、無辜の民を気取れる人はほとんど存在しないのではないか。連日、新聞報道を見て、背筋が寒くなる。