論 考

真摯

 「現代は、すべてを問い直す覚悟なくしては、混乱もしくは無自覚に陥るしかない」、「民主主義、平和主義に託した希望が崩れ去っている」、「近代科学文明のあわれな戯画――大衆の判断力を養うどころか、わけもわからず鵜呑みにする習慣を植え付けるに過ぎない」

 上記はシモーヌ・ヴェイユ(1909~1943)が、1934年に出版した『自由と社会的抑圧』の序文に書かれている。

 ナチが政権掌握したのは前年である。

 第二次世界大戦は出版の5年後に始まった。

 ――ヴェイユの主張が、実にこんにちの問題意識と重なってくる。

 20世紀は2度の世界大戦があり、おおかたの人々は二度とこんなバカはしたくないと思っただろう。

 戦争の惨禍は人の心を真摯な反省に招く。しかし、反省したとしても、その後の世界が好転したとは思えない。

 すべてを問い直す覚悟という言葉は抽象的だが、たぶん、各自が「懐疑心」をもって、日々を真摯に生きねばならぬということに通ずるだろう。

 個人の人生にしても、社会にしても、日々の積み重ねが厄介な事情として露呈する。知的サボタージュがいちばんわるい、というヴェイユの声を想起する。