論 考

働き方改革の主人公は誰か?

 敗戦まで、労働者は資本家(事業家)に「働かせていただく」のであり、賃金引き上げなど要求するのは道を踏み外すことに等しかった。封建主義の遺産である。

 労使対等など全然存在しなかった。

 だから戦後、組合の賃上げが定着したのは、賃金決定における経営面に労働者が参加することになった。それは、非常に大きな労使対等の一歩である。デモクラシーの成果である。

 ところで、賃金闘争で組合がいちばん元気だったのは、飢餓賃金といわれた低賃金時代である。なんとなれば、「これではご飯が食べられない」というのであって、当然ながら迫力がある。

 ところが、ここに大きな落とし穴があった。食える・食えないというのは、いうならば生物的要求にすぎない。

 そうではなく、「自分の労働力を売り手自身として明確に規定し」、買い手(経営側)との対等交渉で妥協点を探すのが賃上げ交渉である。

 西欧の歴史的流れは、「人間であるから生物的要求のみに生きたくない」というにあるが、わがほうは、余りにも生物的要求の文脈にとらわれて、その壁を乗り越えずに今日まで来てしまった。

 それが——政治家に「働き方の改革」のご高説を語っていただく! ような事情になってしまった原因である。

 賃金への対処も、働く人の哲学が必要なのである。