論 考

アメリカ政治の混乱を煽る

 ロシアの実業家で民間軍事会社ワグネルを設立したプリゴジン氏が、「アメリカの選挙に介入したし、現在も介入しており、今後も介入する」と語った。この発言自体も情報戦略だ。

 狙っている効果は、選挙に対するトランプ一派の不正選挙論をさらに煽ることだ。本当に介入しているかいないかよりも、選挙に対する人々の疑心暗鬼を拡大することが、アメリカの民主主義をさらに劣化させるという判断だろう。

 ツイッターを買収したマスク氏が、中間選挙前日、共和党への投票を呼びかけた。彼のフォロアーは1億人以上いるらしい。

 その理屈は、大統領権限が非常に強いから、権力を均衡させるには議会主導権が共和党になるべきだとし、とりわけキャスティングボードを握る無党派層へ呼びかけた。

 トランプ氏は、早くも中間選挙も不正選挙だと煽る。

 これらの動きは、アメリカの民主主義をさらに劣化させる可能性が高い。

 マスク氏の理屈は一応スジが通っているが、1人の著名人が自分のSNSを使って投票誘導をおこなうのは、民主主義の自由平等の精神からは外れる。

 そしてなによりも、現在、アメリカの選挙制度に対する、作られた不信感が拡大していることを考えると、政治に対する人々の無力感を増幅し、政治的混乱を助長する効果が懸念される。

 政局に緊張感を注入するのは大事だが、分断と対立が固定化しているとき、政局は混乱するだけである。

 プリゴジン氏とマスク氏の発言が同時期に重なったのは偶然だろうが、民主政治を毀損する効果において、同じ方向性を持つことを懸念する。

 選挙も1つの多数決だが、さまざまな意見を議論によって止揚するという民主主義の核心を押さえていないと、民主主義制度は瓦解してもおかしくない。