月刊ライフビジョン | 社労士の目から

「フリーランスの働き方」を考える

石山 浩一

 最近フリーランスという言葉をよく目にします。「働き方改革」や「自由な働き方」という言葉がフリーランスの増加を後押ししているようです。しかし、その働き方に対する法的な保護もなく厳しい労働も報じられています。改めてフリーランスの働き方を考えてみます。

“フリーランスは労働者?”

 フリーランスは働いて賃金を得て生活をしていることでは雇用労働者と同様ですが、事業主との雇用契約がありません。その都度受託した仕事をして賃金を得ています。そうした意味では個人事業主といえますが受託した業務に関しての自由度がないため労働者ともいえます。

 手許にある2016年の菅野和夫「労働法第11版」や2020年の水町勇一郎「労働法第8巻」にはフリーランスという言葉はありません。私自身もこの言葉を目にしたのはかなり最近になってからです。

 働き方改革では正規、非正規社員の待遇の格差が問題になり、企業としてはその格差縮小が課題になりました。しかし、非正規社員を正社員と同様の待遇にすることは、経営的には厳しい選択です。そこで雇用契約がなく社会保険への加入義務のないフリーランスに仕事を委託する経営者が増えてきたと推定されます。

 代表的な個人事業主として、ウーバーイーツ(Uber Eats)があります。 自転車やバイクを使って好きな時間に配達できるとして働く人が増加しています。ウーバーイーツのネームが入った黒いシャツの配達員をわがマンションでもよく目にするようになっています。

 フリーランスを採用しているランサーズ株式会社によると、2021年のフリーランスの人は約1,577万人で、2015年より約640万人増えているという。2021年の就業者6,677万人に占める割合は23.6%と高い比率になっています。

“相次ぐフリーランスの労働組合”

 労働組合を結成する労働者について労働組合法は、「労働者とは職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準じる収入によって生活する者をいう」としています。一方、労働基準法では「労働者とは職業の種類を問わず、事業所又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。」と規定されています。但し、労働組合法には労働基準法にある「使用され」という用件はなく、従って、失業者も労働組合法では労働者となり、労働組合の組織構成員と解されています。一方、労働契約法においては「この法律において労働者とは、使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者をいう。」であり、労働基準法に近い定義となっています。このように確立した判断基準が存在していなかったため、裁判所が個々の契約内容や法的な使用従属性によって結論を出していました。

 フリーランスで働く人たちの増加に伴い、労働組合を結成する動きが活発になっています。本来は依頼する企業や事業主と対等な立場だが、実態は雇用関係にある労働者に近い。そのため報酬や働き方などに不利な扱いを受けることが多いことから、労働組合を結成しています。2018年~19年に楽器メーカーのヤマハの子会社系列で「ヤマハ英語教室」の講師や、飲食物配達サービスの「ウーバーイーツ」配達員も労働組合を結成しています。

 また英会話教室大手ECCの子ども向け教室「ECCジュニア」の会社が、「非対面では効果が出ない」として講師の裁量に任せていたオンラインレッスンを20年6月に原則禁止にしています。さらに9月には報酬規定を不利な内容に変更する方針を書面で一方的に通知してきました。そのため講師たちは今年2月、52人が参加して労働組合を結成して交渉を行っています。

 フリーランスが働きやすい法的な環境整備を求める動きも活発になっています。労働者としての最低保障賃金や団体交渉など労働者に認められる権利の強化を目指す任意団体「フリーランスユニオン」が今年6月に設立されました。

 フリーランスには厚生年金・健康保険などの社会保険に雇用保険や労災保険の加入が義務化されていません。エンジニアなど専門職の間にも契約条件の明示化など事業者としての保護を望む声も高まっています。働き方が多様化する中で、増加するフリーランスに対し政府は新法の整備も含めて、働き手の多様さに対応したきめ細かな制度設計が求められています。


◆ 石山浩一
特定社会保険労務士。ライフビジョン学会顧問。20年間に及ぶ労働組合専従の経験を生かし、経営者と従業員の橋渡しを目指す。   http://wwwc.dcns.ne.jp/~stone3/