論 考

大学ファンドはできたけれど

 10兆円大学ファンドが打ち上げられたが、いまだ詳細不明だ。

 日本は、明治近代化以来、産官学挙げて「追い付け追い越せ」論でやってきたが、それが成功したのは明治維新以来の30年と、敗戦後の30年である。

 前者は、一等国に仲間入りしたと舞い上がって、昭和の15年戦争で悲惨な結末を迎えた。後者は、どん底から這い上がったものの1980年代バブルで頂点を迎え、90年代以後は鳴かず飛ばず、素人目にも日本力が大きく低下しているのが感じられる。

 「追いつき追い越せ」もそれなりの戦略であるが、どこまでも他者の成功をトレースするのだから、本来の自前戦略ではない。

 自前戦略を構築するには、たしかに大学を頂点とした学問世界の発展に期待が寄せられる。しかし、大学卒が増えたとしても、産業界のモデルが旧態依然であれば、高学歴者の本来の出番がない。

 大学のレベルが落ちたといわれて四半世紀以上過ぎた。そこで大学院が強化されたはずだが、大学院で勉強すると産業界には入りにくいし、大学でも、じっくり腰を落ち着けて研究活動にかかわる条件がわるい。単純にいえば、これが目下の大学事情だ。

 大学ファンド自体がナンセンスとは言わないが、どうも、大学についての現状分析が半端ではないのか。

 社会と大学の在り方について、もっと味わい深い論議を組み立てるべきではなかろうか。