週刊RO通信

政治家が危機を作り出す

NO.1444

 ウクライナは中世には、東スラブ文化の中心として栄えたが、13世紀のモンゴル帝国による侵攻以降、おおかたの期間は他国の支配・分割に翻弄された。1917年、民族運動が起こりウクライナ人民共和国を建てた。第2次世界大戦後はソ連の一部となり、ソ連崩壊によって91年に独立を果たした。肥沃な農地を有しており、穀物輸出国である。ロシア・フランスに次ぐ大きな軍隊をもつが、高い貧困率と汚職にも悩まされてきた。

 ウクライナ人は4千万人口の3/4を占める。親欧州と親ロシアの対立も長く続いている。2013年ヤヌコーヴィチ政権がEU加盟手続きを断念した。これに対して野党の抗議活動が盛り上がり、14年にヤヌコーヴィチを排除した。そのころからロシアのクリミア侵攻が画策されている。同3月には親ロシアの人々が多いクリミアとセバストポリ両議会で独立宣言が採択され、クリミア共和国を成立させた。プーチン氏は、ただちにロシア編入条約を締結し、事実上の占領を果たした。

 ウクライナ・国連・アメリカ・EUが、これを違法行為として対ロ経済制裁をおこなった。正常化への4者協議(ウクライナ・米・EU・ロシア)がおこなわれたものの、ロシアはクリミア半島返還に応じない。ウクライナ政府と東部ロシア系武装勢力との間での戦闘が続いた。

 14年4月、大統領にEU加盟路線のポロシェンコを選出し、15年2月には、ミンスク停戦合意(ポロシェンコ・プーチン・メルケル・オランドの4者による)が成立したが、以後も正常化はならず、小競り合いが続いている。19年に、大統領にゼレンスキーが就任、「クリミア・プラットホーム」方針を提起してクリミア奪還を掲げている。

 この1月26日、パリで、4か国高官協議(独・仏・ロ・ウクライナ)が開催され、ミンスク合意が交渉の土台であり、停戦は無条件で守らねばならぬこと、さらに交渉を継続するとした。ウクライナは、「4か国協議が蘇った」と語ったが、漂う不穏な空気を変える内容とは受け止められていない。

 その前、米欧がウクライナ侵攻の明確な中止を求めたのにたいして、プーチン氏は、NATOをこれ以上東方へ拡大させないよう法的に要求した。米欧ともにNATOは「open door」だとして、拒否した。バイデン氏は、ロシアが建設的回答をしない場合は、対抗手段を取ると通告している。

 NATOに対するロシア見解は、ウクライナ侵攻の理不尽さを棚上げして、その回答が好ましくなければ侵攻を正当化するという意図が見える。修羅場交渉の得意なプーチン流である。米欧が拒否するのははじめからわかっている。話し合いが続いている間は時間稼ぎで、相手が困惑するのを高みの見物する余禄もある。プーチン氏は、欧州各国の結束がしっかりしたものかどうか。足並みの乱れ、軋轢を愉しめるかもしれない。

 ジョンソン氏は、EU離脱で国民に手痛い損失を負わせ、コロナ対策の不手際に加えて、いまや人望は地を這う。ウクライナ危機が深刻化するなかで、対ロ強硬論を引っ提げて注目を集め、一挙人気挽回などと考えているならば、米欧足並みの乱れを増幅し、最悪の事態を招きかねない。

 マクロン氏は、数か月後に大統領選挙を控えている。先の選挙のような楽勝ムードは巻き起こらない。ナショナリストを抑え込むために、ウクライナ問題で手柄を立てたいと考えているであろう。こちらも、事情の分析、洞察が国内の政治的思惑に左右される危惧がある。ショルツ氏は、天然ガスをロシアに依存しているし、メルケル氏が描いた流れを再現するのも難しい。

 なによりも、メルケル氏のような欧州の接着剤がない。欧州の結束を、英仏独が生み出せるだろうか。

 プーチン氏が、大戦に拡大するリスクを軽視するとは思えないが、ロシア全兵力の1割がウクライナ国境に配置されている。戦争の懸念は大きい。撤兵には、大国ロシアのリーダーとして「与えられて当然の敬意」を求めるだろう。米欧の経済制裁はロシアにすればすでに戦争と同じである。

 紛争を起こすのは政治家である。国内政治がうまくいかない場合、とくにその傾向が強い。さらに、軍事力依存の外交が続く限り、世界は紳士に扮した無法者が支配するみたいだ。非戦外交を追求するしかない。