論 考

現実に流されるだけではダメだ

 岸田首相施政方針演説は、自民党総裁選挙時の公約と概ね同じであり、ブレがないといえばそうなのだが、ただし、当時より具体化したという感じがしない。

 「やりましょう」「検討します」のオンパレードで、手答えがない。

 コロナ感染拡大防止策では、いままでの取り組みを総括して6月に今後の司令塔を確立するという課題に、わたしは注目している。自民党長期政権にたいする最大の不満は、計画・実行・検証の流れがないことだ。

 人間の活動は、すべて状況にたいして、いかなる取り組みをおこなうかにあり、実行したことを反省・検証するなかから、進歩や改善が生まれる。しかし、反省・検証がないと、やりっ放しだから、次々に問題を抱え込んでしまう。

 本件も施政方針では前回同様の内容で、取り組んでいるのかいないのか依然としてわからない。

 もう1つは、大きな問題で、安全保障環境が厳しくなっていると主張する。しかし、誰が考えてもわかるように、軍事力に全面的に依存して、対処するだけでは、それ自体が安全保障環境の厳しさを深めるだけだ。

 政治のトップとして、世界観を開陳することが大切であるが、まったくない。敵基地攻撃能力の検討は、実務的に無理だとわかっていることを検討するだけではないか。現に、北朝鮮の飛翔体発射の特定すら明確ではない。

 アメリカと歩調を合わせるというだけでは、独立国家の建前が泣く。

 状況に流されて、場当たり的な取り繕いをするのではなく、立ち止まって、現在地の確認をする原則的作業がないと、とても現実主義の立場ではない。それは、単に日和見主義を糊塗しているだけである。