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真実の解明に努力を続けよう Talk&Talk

ライフビジョン学会

ライフビジョン学会2017年度 総会学習会報告3
 2017年5月20日10時から19時、国立オリンピック記念青少年センター(東京渋谷)でライフビジョン学会2017年度の総会と公開学習会、懇親会を行いました。

 恒例の総会学習会では、桜美林大学・高井潔司教授から、「事実の解明に努力を続けよう」と題して問題提起をいただき、続いて 参加者全員による、意見交換Talk&Talkを行いました。

わからないことを極めていく、追いかけていくのが、ジャーナリズムですね。

高井潔司 教授

「真実こそ正義」という価値観に疑問府

 ライフビジョン/奥井禮喜 2016年は米国大統領選挙を口火として、「Post Truth」という言葉が登場した。それまでの「真実こそ正義」という価値観に疑問府がつけられ、「真実」の信ぴょう性、定義のやり直しを問われることになった。

 高井潔司 若い人にはマスコミ不信感があり、マスコミは事実を知っているのに、都合の悪いことは隠して報道していると思っている。マスコミは権力や大企業が隠していることを探り回る。その過程で圧力を受けることもあるが、その中で書くのがジャーナリストなのだ。

 また、報道の自由があれば何でも分かるのではない。中国には報道の自由はないが、逆に中国には命を懸けて真実を分かろうという記者が何人もいる。日本人は中国のメディアに対して偉そうなことを言う人がいるが、報道の自由があっても、ジャーナリズムが機能するように取材対象としっかり向き合わなければいけない。

 読売新聞記者時代、中国の駐在員だった私は鄧小平が死んだときの号外で、中国の改革。開放路線は鄧小平の死後も変わらないと書いたら、上からダメだ、中国では指導者が死んだら必ず権力闘争が起こり、変動が起きる(笑い)、そう書けと言われた。私は書かないと突っ張って喧嘩したことがある。自分が取材して、自信のあることは主張して通すのが新聞記者だ。私の時代はナベツネこと渡辺恒雄社長(当時1)ら幹部とだって議論したものだ。最近の紙面を見ていると、事実よりも、上の意向を忖度して作っているのではないか?

 高井 情報イコール事実、ではない。情報とははじめから、出鱈目から真実まで信憑性のレベル差のある「虚構」なのだ。メディア研究の祖、ウォルター・リップマンはそれを「疑似環境」と呼んだ。彼は信憑性を図って利用すれば、情報は人を誤らせるものではない。だから新聞記者は常にその信憑性を見抜く必要がある。

 そもそも情報は、メディアに載せるために全部「記号」にしなければならない。

 以前は文字だけだったが今は映像も動画もある、報道は信頼と正確さを大切にしているが、メディアに載せるためにはどこかで何かをカットし、どこかの見方で変えている。逆に言えば、利用する人は情報から真実を見極めなければならない。それは「ポスト真実」でも「プレ真実」の時代でも同じだ。

 奥井 事件が起こるとそれがニュースになる。それはコトである。ナゼ起きたのか、その結果どういう効果を引き出すのか、それを読み取るのが読者だから。

 高井 そうです。

 奥井 ニュースとは、料理ではなく材料で、料理を作るのは情報の受け手である。それがメディアリテラシーといわれるものであると考えているが、どうですか。

 高井 それと同時に、メディアも起きていることが何なのかを取材し吟味し、選択して、材料を提供する。

 例えば軽井沢のバス事故で学生が死んだ。テレビではバス転落事故、何人死亡、と出てくる。新聞記者は現場に行って、それがどうして起きたのか、その背景にバス運営会社に何か問題はないのか、道路の構造はどうか、管理している国土交通省に問題はないか、そこを取材して事件の本質に迫る。

 「軽井沢でバス事故。死傷者多数」なんて、電光ニュースで済まない、事件の深層が見えて来る。ネットでニュースを見る場合、往々にして見出しだけで済ませることが多いし、目を引くニュースに目移りする。ニュースサイトの編集者も読者の嗜好に合わせてアップするニュースを選択する。

 奥井 送り手の「ジャーナリズムの構え」に対して、読む側は「事実は何かを知ろう」とする態度が今まで無かったように思います。

 高井 事実を知ろうとする姿勢はネット時代に入ってますます弱くなり、そればポスト真実の時代を生み出している。

心配尽きない政治コミュニケーション

 奥井 人間の社会が出来たのは、コミュニケーションが成立するようになってからだと思う。すると今、日本の国会で議論が成立していない。

 コミュニケーションが成立しない人が総理で、議会で言葉のやり取りができない。首相は証拠があっても「やっていたら辞めます」と、説明しようとしない。本来の議論とは自分と違うAとBの意見も聞いて、Cという結論に持っていくのだと理屈を言っても、その気が無い。その程度のコミュニケーション能力しかない人を説得したり言い負かせても、本人が認めない。今の国会は民主主義の最大の危機だと思っている。

 日本の報道の偏向もある。例えば北朝鮮問題について、伝えるべきものを伝えていない。

 まず、新聞を読んで日・韓・北朝鮮・中・ロシア、米、6カ国の当局が目指しているゴールが分かるか。明日にも弾が飛んでくるような報道はあるが、それぞれの外交当局が目指すゴールが分からないのに、他の5カ国が、北から合意を獲得できることは無いだろう。

 「対話と制裁」ともいうが、誰が対話しているというのか。ノルウェーで非公式に、北の高官と米の元高官が会った。人口4-500万人の国が、はるか離れた北朝鮮問題の仲介をしている。この国では何をしているのか。何もしていない。

 また、制裁で何か変わるのか。北朝鮮の国民はいま戦争中だと思っているから、耐乏生活を受け入れているが、もし戦争で無いと知ったら耐乏生活を強いる正統性が無い。すでに経済制裁は効いているから、民生はこれから加速度的に苦しくなる。対話と制裁といっているが、やっていることは制裁だけではないのか。ノルウェーでの対話があちこちで進んで行くかもしれないが、今のままだと(北が)やけくそになる可能性が高い。

 北のリーダーと同様に、アメリカのリーダーもおかしい。クリントンの時代に先制アタックをしようとしたが、北の体制が崩壊するだろうと思ってやらなかった。トランプはシリアを砲撃したら人気が出てきたので、アタックしようと思うかもしれないが。

 会員Oさん 中国が一番不気味だ。国家主席が長期政権で皇帝になるのではないかとか。

 高井 日本の新聞が意図的な情報を流しているからそう思う人が出てくる。(笑い)習さんはまだ一期目(5年)で、もともと二期十年が普通でまだ長期政権とか皇帝とか議論する段階ではない。

 会員Oさん アメリカの動きでは、北朝鮮の動きを中国に抑えてほしいというのが本心なのか。

 高井 中国には北を抑えきる力があるかどうか疑問だが、あったとしても、北を抑えて、例えば韓国との統一なんて見たくないと考えているでしょう。中国には一方でアメリカに対する警戒心もあり、朝鮮半島を全てアメリカの勢力範囲に置きたくない。

 奥井 アメリカは北が対話したがっていることは承知しているが、なぜしないか。それはアメリカにとって今の状態が一番都合が良いからだ。

 例えばもし朝鮮半島が非核化して平和状態になったとすれば、アメリカは韓国も沖縄の基地も撤退するしかない。官庁も軍隊も自組織の拡大を命題にしているから、ロイターもBBCも、アメリカ軍は北が今のままでいてくれたほうが良い、という説を展開する。朝日新聞ではわからない。

 2016年の軍事費は世界で1.68兆ドル、米国が6110億ドル、中国は2150億ドルと米国の1/3だが、朝日を含めて、中国の軍事費が危ない、不気味だという。しかも憲法は9条だからとか。われわれはこういう新聞を読まされている。東京新聞も中国関係は差別意識モリモリだ。少なくとも朝日新聞ぐらいは公正な目で見てほしい。 

 高井 日本はますます不安定、不透明になりますね。

心もとない東アジア報道

 会員Iさん いままでのアプローチは北に対して、上手くいっているものは何も無い。逆に、北を豊かにするアプローチを考えてあげるのはどうか。

 高井 1990年代初めごろは、北東アジア経済圏構想というのがあった。新潟などにその研究所があり,環日本海経済圏構想では北の労働力、日本の資本力、中国の市場力を使って、ロシアのシベリア開発を進めようというものです。北朝鮮にとっても良い政策ですが、それにはアメリカも賛同して、この地域に平和な環境を保証する必要があります。それには、北の独裁政権の警戒を解かなければ前に進まない。アメリカが交渉を拒否している限り無理でしょう。

 会員Iさん 自分たちは核を持ち、北には持つなという。北にとっても抑止力なのだから持つのが当然だが、そう書く新聞は無い。どちらが本当の悪者なのか。

 高井 21世紀に入ってからの日本の国際報道は、国際関係を専門にしている記者よりも、政治部、経済部の記者が重視され、日本の立場から問題を見るように変わってしまった。

 読売新聞の現国際部長も(記事を毎日編集して出す)デスクも海外経験も無い人で、国際報道なのに、国内ニュースのように書いている。日本の外務省から取材し、外務省の立場で編集して記事を出す。外国に駐在している記者がその国の立場から見える姿を書いても、それは日本の立場と違う、といわれてしまう。外務省は国益というより、時に省益を優先し、無策の外交を覆い隠し、さも成果を挙げているかのように振る舞う。

 結局、日本の国際報道は、日本の外務省の目、日本の国益から考えて出発している。一方で向こうの立場ではどうなのか、そういう材料を提供してくれない。北から見ると、米国でいつ引っくり返されるとも知れないために、抑止力、報復する力を蓄えようとしている。ところが、北朝鮮と言えば、何をするか、分からない狂った国としてしか扱われない。今、北がやっているのは、何をするかわからないという緊張感を演出して、相手を交渉の場に引き込もうというゲームをしているのだ。

 それを、ミサイルをいつ飛ばすかわからない危険な国という調子で報道していたら、交渉で問題を解決する方向の報道にならない。国際記事は相手の立場からも見なければならない。

 会員Iさん そのような交渉をやって誰が得をするのか。米韓中日、ロシアが入っていない。結局どこか一国が抜けたら、それで終わりなのだろう。

 高井 そう。最近、ロシアが抜け駆けしようという様子が出てきている。ロシアと一緒に抜け駆けをしてきた安倍さんが、ここでロシアに一言言わないのか。脅威だ脅威だと、日米韓の三者会議を強調するが、制裁自体に効果があるかどうか疑問だ。その制裁でさえも、抜け駆けする国が出てくるからなかなか効果がない。その上で、いつミサイルが飛んでくるか、分からないと聞かされて不安になり、突然地下鉄が止まったり、するからたまらない。

 奥井 原因から起こしていかねばならない。

 1953年7月、朝鮮戦争は休戦してから、休戦協定のままで、中・ソは撤兵した。米国だけは韓国に駐留し続けた。そこから起こっている。北の最大の狙いは安全保障だが、いまは経済のほうがもっと喫緊なのだ。米国はそこを見て、核とミサイルの開発放棄を前提にするが、それでは北に、裸になって出て来い、ということだ。対話が成立していればそれが出来るが、成立していないのに、制裁だけでやったのでは、出てこられない。

 経済制裁は加速度的に効いてきているから、ロシアが多少助けても、やけくそになる可能性が強い。どうするのか。

 日本の新聞は朝日も含めて、中国が北を説得せよというが、間違えている。北が話しをしたいのは米国なのだ(そうです、笑い)どこの新聞も書いていない。中国には迷惑な話だ。

 2000年代に中国はすでに、何で自分が北の面倒を見るのかと書いている。ここを新聞には書いてほしい。本当に対話するのは中国ではなく、アメリカなのだ。

 日本はまだ、制裁とか断固許さないというが、国内で朝鮮学校をいじめるぐらいで、対話も無い。何もしないのだ、この国は。

 

で、「情報の未来」はどうなるの?

続きは次号で。(文責編集部)