週刊RO通信

日米首脳会談 忖度、勇み足するな

NO.1402

 菅氏が訪米して4月16日に日米首脳会談の運びとなる。首相就任以来、記者会見の仏頂面はおなじみだが、外交センスを知る機会がない。バイデン大統領が対面して外交する最初の外国首脳であるから、菅氏におかれては心に期すものがあるだろうが——歴史的失策をしないように願う。

 2020年10月26日第203回国会における所信表明演説を読み直してみた。以来半年が経過した。日米首脳会談を前にして、この間の内閣の評判はどんなものかといえば、お世辞にも高いとはいえない。

 首相就任の所信表明演説で、第一に掲げたのはコロナウイルス対策だ。「爆発的な感染は絶対に防ぎ、国民の命と健康を守り抜きます」と語った。演説当日、コロナ感染者98,455人・死亡1,741人。この4月11日の感染者は505,005人・死亡は9,405人となった。

 約半年間で、感染者は406,550人増・死亡は7,664人増である。感染・死亡とも増加数は演説当日の4倍超である。演説「1日平均20万件の検査能力を確保します」、「ワクチンを来年前半までにすべての国民に提供する」云々も怪しい。コロナ感染拡大防止戦略はガタガタだ。

 「GoToキャンペーンにより、旅行・飲食・演劇やコンサート・商店街でのイベントを応援します」との触れ込みだったが、二兎を追う者一兎をも得ずの通りどころか、感染拡大に貢献させ、目下は、ゆるキャラ「まんぼう」に後事を託す始末だ。官房長官時代も含めると、1年半にわたる学習期間があったことになるが、傍目には学習したらしい足跡が感じられない。

 鳴り物入りデジタル化は、拙速が祟って最初からつまずく。2050年までに温室効果ガス排出ゼロは、幸い? まだ海のモノとも山のモノとも判断できない。一方、原発処理水の海洋放出の是非を巡って大きな不安が持ち上がった。日本学術会議会員任命拒否問題、長男が絡んだ財官癒着、コロナ感染防止策=自粛を発する本家本元の政治家・官僚諸氏の失態も重なった。かてて加えて安倍時代からの汚職不祥事が次から次へと露見して絶えない。

 東京五輪は、開催できるかできないか微妙。復興五輪だとか、コロナに打ち勝った証の五輪だとか、空疎なコピーは吹っ飛んだ。マスコミが、叩き上げの苦労人と持ち上げてくれたことが、むしろ災い。所詮、対官僚強面おじさんに過ぎず、官僚が委縮した分、厄介のブーメラン効果みたいである。

 こんな渦中での日米首脳会談だから、菅氏にすれば、一発勝負、人気挽回への契機にしたいと考えるだろうか。しかし、予想される安保問題・気候変動・経済対策など、大当たりするような内容があるわけではない。

 菅氏のキャラからして、外交のショーアップを狙うとは考えにくいが、老婆心ながら「ヨシ(ガースー?)と呼んでくれ、ジョーと呼んでよろしいか」という調子では、くれぐれもやらないでいただきたい。まず人間関係つくりという日本流は、安倍・プーチン会談の実績で無意味なことが証明済みだ。

 なにゆえ、バイデン政権がコロナ対策でもあたふたしている中、日本首相の訪米を受け入れたか。もちろん、小たりといえども、「特定国家を排除する地域協議体には与しない」という意志明確な韓国とは異なって、日本が「わが道を行かない」のは先刻承知だ。社交の達人、ヨイショ上手の米国ではあるが、実利を無視して友好を確認する儀礼的外交ではなかろう。

 たとえば、米国シンクタンクが「辺野古基地はできないだろう」などとレポートする事態である。2018年玉城知事の当選、19年県民投票、辺野古基地反対70%の意思表示に加えて、地盤軟弱で技術的大問題が発生して、順調に運んでも完成までに10年超かかると予想されている。

 米国としては、沖縄、いや日本ぐるみ対中最前線基地の扱いだ。かつて中曽根大勲位は「日本列島不沈空母論」発言で米国に大サービスした。辺野古基地について「いかなる民意であろうが、困難があろうが、不退転の決意」で、などと、忖度的勇み足をするべきではない。加えて密約が心配だ。

 日本の政界には、国内政治権力の安定には米国の全面的支持が不可欠という信仰がある。GHQ時代が過去の話に見えないのが極めて遺憾だ。意図的に敵対国を作りブロック化することは、日本だけではなく世界の平和に逆行する反グローバル化の誤った道である。歴史を後退させてはならない。