論 考

スーパーヘビーとモスキート

 かつて日中関係正常化交渉で、田中角栄首相が毛沢東主席と会うと、毛沢東氏が(周恩来首相との)「喧嘩は終わりましたか」と語りかけた話を思い出した。アンカレジでの米中高官協議の報道に接しての感想である。

 ブリンケン国務長官が冒頭、新疆・香港・台湾問題、米国へのサイバー攻撃、同盟国への経済的強要行為などを並べて、中国の行動が世界の安定を維持しているルールに基づく秩序を脅かしていると述べたのに対して、王毅外交部長・楊潔篪政治局員、とりわけ楊氏が歯に衣着せぬ主張を展開したようだ。

 人民網による楊氏発言をみると、米国の価値が国際的価値にあらず、米国の発言が国際世論にあらず。米国には米国の、中国には中国の民主がある。米国は何かあると武力を行使して世界を動揺させている。米国の人権問題、自国イメージを改め、(国内を)しっかりと管理すべきだ。内政干渉は断固拒否する。米国は中国に対して高いところから見下ろすようにものを言うべきではない、など。

 米国が強い立場で臨むのであれば、中国としても対等にやる。経済大国になる以前から、政治大国を内外に認められていた中国らしい発言である。

 これは冒頭の公開されたシーンであるから、その後、どのような論議が交わされたのか、現段階ではまだ分からない。言うべきことを言うという面からすれば、極めて率直な見解を楊氏が表明した。

 わが国では、その前のQUADなど、対中包囲網云々と報じられているが、いかにも軽薄である。3月17日の外交部超立堅報道官定例会見で、日本は、中国の台頭と復興を阻止するという利己的目的で、米国の戦略的属国に甘んじている。中日関係を損なうことを辞さずの態度だと指摘し、米日は中国に対する内政干渉を止め、対中小集団形成を止めよと発言している。

 米中が正面衝突するようなバカな関係へ向かうことはないだろうが、ならば、なおさら、日本が、米国の太ももを抱え込むような半端な態度に終始するならば、それこそ赤恥をかくだけではすまない。地球儀を眺める程度の見識で外交はできない。先人が構築した日中関係の遺産を食いつぶしてならない。

 米中外交は、これから再建されるだろうし、わたしはそれを期待する。事態の推移をしっかり研究しなければならないが、なによりも、独立国たる日本が戯画的にいえば、スーパーヘビー級の外交にモスキート級が紛れ込んだようなものになることを懸念する。