月刊ライフビジョン | 社労士の目から

70歳までの雇用継続の課題

石山 浩一

 高齢化の進展とともに働く人の年齢も延びて、それに伴って定年年齢が延長されている。1986年の高年齢者等の雇用の安定等に関する法律改正で60歳定年が努力義務となった。そして1994年の改正によって60歳未満定年制が禁止(1998年施行)されたことで60歳が日本の標準的な定年になった。さらに2006年の法改正によって65歳定年もしくは65歳までの雇用確保が義務化されている。それから15年を経て2021年からは70歳まで雇用することが努力義務となった。

60歳定年後の再雇用”

 人手不足が喧伝されたのはコロナ感染が拡大する前の昨年末ごろまでだった。しかし、現在はコロナ感染の拡大によって、解雇や雇止めが急増している。

 2020年12月の総務省統計局の発表による労働力調査では失業率の推移は下記の通りである。

完全失業率

2017年

2018年

2019年

2020年

2.8%

2.4%

2.4%

7月

8月

9月

10月

2.9%

3.0%

3.0%

3.1%

 18年、19年の失業率は2.4%とバブル期の水準まで改善されていた。しかし、コロナの拡大による経済の悪化によって2020年の後半は3.0%まで低下している。コロナ感染が急激に収束する気配はなく、経済の先行きは不透明な状況である。そうした中での70歳までの雇用確保は企業にとって困難な課題と思われる。企業努力で雇用を継続しても支払うべき給与が大きな負担となり、65歳以降の人への賃金は最低賃金程度となる可能性が高い。65歳までの定年延長や雇用継続のときも労働条件についての基準は示されなかった。そのため定年後の雇用は延長されたが給与の大幅ダウンが問題となって、正規社員との格差是正を求める裁判が行われた。その結果、正規・非正規に関する同一労働同一賃金について、不合理な待遇の禁止規定がパートタイム・有期雇用労働法に規定された。この規定は新たに努力義務となった65歳以降の労働者にも適用される可能性は高く、企業はこの基準をクリアすることはかなりの負担となると思われる。コロナ感染によって経営環境が厳しさを増す中で、65歳以降の雇用継続をどの程度実現できるかは不透明であり、絵にかいた餅の可能性もある。

65歳再雇用者の賃金水準”

 65歳までの雇用継続が義務化されたことへの対応として、60歳定年後の継続再雇用が77.9%、定年延長が19.4%、定年延長が2.7%であった。こうした状況で70歳までの雇用継続に対して企業が賃金を含めてどう対応するかが課題となる。高齢者が働くことへの意義ある待遇であって欲しいものである。

 60定年後再雇用の賃金についてこれまでの判例では、手当の廃止は大部分が不合理とされている。しかし、基本部分については年金が支給されていることもあって2割程度の減額は不合理とはされていない。この2割減額された賃金を65歳以降も維持しなければならないとなると、企業にとっては負担と考えられる。企業側としては、60歳定年後再雇用して65歳まで雇用を継続後の再雇用を考えれば、もう一段賃金は下げたいだろう。では60歳定年後に下げた賃金をどこまで下げることができるのかが、65歳以降の雇用継続をきめるカギと思われる。


石山浩一

特定社会保険労務士。ライフビジョン学会代表。20年間に及ぶ労働組合専従の経験を生かし、経営者と従業員の橋渡しを目指す。   http://wwwc.dcns.ne.jp/~stone3/