論 考

まともであるか!

 東大出版会月刊誌『UP』4月号に、恒例「東大教師が新入生にすすめる本」という企画がある。今年は、ヴィクトール・フランクル(1905~1997)の『夜と霧 新版』(2002池田香代子訳 みすず書房)を紹介された先生が2人おられた。わたしが読んだのは1997版で霜山徳爾訳である。

 原題は『EIN PSYCHOLOG ERLEBT DAS KONZENTRATIONSLAGER』(強制収容所における1心理学者の体験)で、フランクル氏がナチの強制収容所に囚われ、奇跡的に生還した体験をもとに書かれた。

 邦題の『夜と霧』というタイトルは、1933年3月28日のヒトラーの緊急命令の「Nacht und Nebel」から付けられた。この緊急命令は、非ドイツ国民で占領軍に対する犯罪容疑者は夜間秘密裏に捕縛して強制収容所へ送るというものであった。

 霜山先生はフランクル氏と交友を結ばれたが、フランクル氏が快活な人柄であると短く感想を記された。

 フランクル氏は、自身の苛酷悲惨な体験に加え、両親と妻子も殺害されたのである。帰ってこなかっただけで、消息はわからない。この本を読んで、フランクル氏が快活な印象を与えたという記述に「超人」を感じる。

 強制収容所のモットー! は「身体を打ち壊せ・精神を打ち破れ・心を打ち破れ」である。人間を、精神的にも物理的にも人間として扱わない環境において、人間的誇りを貫き通した。フランクル氏のキーワードの1つを紹介すれば、「人間には、まともな人間とまともでない人間の2つしかない」、かつ、「まともな人間は少ない」

 どなた様にも是非お読みいただきたい。