週刊RO通信

「新事実はない」のではなく、「新事実が発生した」

NO.1347

 森友学園への国有地売却に関する決裁文書改ざん問題で、財務省近畿財務局職員の赤木俊夫さん(当時54歳)が、2019年3月7日に自殺したのは、改ざんを強制されたことが原因だとして、3月18日、赤木さんの妻が、国と佐川宣寿元国税庁長官に対し、1.12億円の損害賠償を求めて大阪地裁に提訴した。赤木さんの遺書が全文公表された。

 森友学園への国有地売買契約が成立したのは16年6月20日である。豊中市議が、17年2月8日国有地売買金額の公表を求める提訴をして、問題が発覚した。同2月17日、安倍氏は国会で「私や妻が関わっていれば、首相も議員も辞職する」と発言した。事実隠しが開始することになった。

 遺書によって見過ごせない現場の事実がたくさんわかった。まず、本事案の担当窓口は財務省理財局国有財産審理室であり、近畿財務局が本省(財務省)の了解なしに森友学園側と勝手に交渉することはありえないという事実。

 17年2月以降、佐川理財部長(当時)が国会で、「面談交渉記録は廃棄した」と答弁したのは真っ赤な嘘である。佐川氏は、「自分(?)の方針」で突き進むために、資料はできるだけ開示しない・開示するタイミングを遅らせるように指示した(と思われる)。これは、本省との関係を考えれば外れていない。要するに「嘘と隠匿」路線が、本省から近畿財務局に降りてきた。

 参議院の要請によって会計検査院の特別検査が17年2月と6月に実施された。その際、佐川理財局長の指示によって、本省理財局の田村国有財産審理室長他2人が派遣され検査に同席した。「会計検査院対策」は、例によって、森友学園との応接記録や、内部資料は示さない隠匿路線の堅持である。

 したがって、18年2月の国会における、麻生大臣や太田理財局長の「行政文書の開示請求により、近畿財務局で確認したところ、法律相談に関する文書の存在がわかった」という説明は虚偽答弁であるという事実。

 本省の、国会対応・国会議員・会計検査院への対応の基本的スタンスは、① 資料は最小限とする、② できるだけ資料を示さない、③ 会計検査院には法律相談関係の検討資料は「ない」と説明する――の3点セット、疑いなく、隠匿・虚偽でもって、嘘を塗り固めようとしたのである。

 決算文書の改ざん作業は、17年2月26日(日)から始まり、3月に入ってからも改ざん作業の指示が複数回あり、修正回数は3~4回である。赤木さんは2月から担当したので、契約の経緯は知らないが、改ざんについては相当抵抗した。しかし、近畿財務局の幹部をはじめ誰1人として本省に対して事実に反すると反論しない。キャリア制度を中心とした組織体制の実態である。本省理財局には組織としてのコンプライアンスが機能していない。

 遺書の末尾には――抵抗したとはいえ関わった者としての責任をどう取るか、ずっと考えてきたが、事実を公的な場所でしっかりと説明することができない。自分が自殺することによって妻を泣かせ、彼女の人生を破壊させたのは本省理財局である――と書かれている。

 朝日新聞が、文書改ざん疑惑を報じたのは、18年3月2日であった。遺書が書かれたのは18年(2月作成中)とある。赤木さんは17年7月から体調を崩して休職中であった。(自分がなしたことを)「ずっと考えてきたが」という言葉に54年の人生を閉じる痛哭を感ずる。

 安倍氏は「検察はすでに捜査をおこない結果が出ている(という事実)」、麻生氏は「内容に新たな事実はない」と語った。新事実がないというのは正しくない。いままでの事実は誰が見ても真実ではない。真実を求める事実こそが大事だ。いままでは、真実とは異なる事実を積み重ねてきた。

 本省の責任が近畿財務局に押し付けられ、その下で悪事の実行に加担させられた赤木さんは、人間としての誇りを傷つけられた。人間としての誇りを傷つけられた赤木さんの妻が決起した。新事実がないどころか、(あえて言えば)保守的人士が好きな貞女の鑑だ。疑問に答えよ。

 夫の「名誉」を回復するための戦いである。たまたま与野党の力関係で正義が捻じ曲げられ、悪代官らが生き延びている。力ずくで真っ当な考えを捻じ曲げられた赤木さんの苦悶を見過ごすことはできない。コロナだけではなく、わが国にはやっつけねばならない連中が徘徊している。