論 考

カントの道徳律

 ベルギー時間1月31日0時にイギリスのEU離脱が成立する。それから今年年末までは移行期間として、イギリスはEUのルール下にある。

 29日、EU議会では、イギリスのEU離脱が、議員の賛成621票対反対49票で離脱が決定した。元ベルギー首相のフェルホフスタッフ議員は、「反対票を投ずることで離脱を阻止できるならば、わたしは真っ先にそう勧めるだろう」と語ったそうだ。

 AFPは、議場で議員たちが手をつないで「蛍の光」(Auld Lang Syne 別れの歌)を歌ったり、抱き合ったり、乾杯する様子を動画で報じた。

 大方の議員はEU離脱に反対である。欧州は1つとして世界をリードする壮大な計画を進めてきた欧州の人々にとって、イギリスのEU離脱は極めて心残りな画期であろう。

 P・ヴァレリー(1871~1945)に「失せし酒」という詩がある。その一部、「失せし酒 酔いたる波か。目におどる 苦き息吹に いと深き 貌、貌そ」

 乾杯して友好の別れを惜しむ議員たちを見つつ、この詩を思い出した。

 いま、世界は奇態な権力者の台頭で大混乱している。ときどき耐えがたい思いに襲われるが、それらの理性を逸脱した動きがいつまでも続くことはない。

 カント(1724~1804)の『永遠平和のために』(1795)から、今年は225年になる。人類の自然状態は戦争であるが、人類は農耕から通商関係へと進み、商業精神は戦争とは両立できないから、やがては、道徳的平和関係へと導かれるとした。

 いまの世界を混乱に陥れているのは、偽りの代表者たる権力者が、法ではなく権力を擁護しているからである。人々が法を守る人間として思索し行動するようになって世界に平和な関係が訪れるというカントの主張を、わたしは信じたいし、その道筋を求めて歩きたい。