週刊RO通信

突出した! 日本郵政の人事

NO.1334

 12月18日、日本郵政グループかんぽ生命保険の不正販売についての、特別調査委員会報告が公表された。いわく、縦割り組織で、部門間の連携が不足、情報伝達が目詰まりしている。経営者は、現場で発生している不正などの実態を把握できず、親会社の日本郵政の経営者は、持ち株会社の役割がわかっていない、組織を統括できていないなどが要点である。

 大企業はどこでも縦割り組織である。調査委員会の報告内容はそれが不祥事の原因であると規定するにはいかにも一般的である。組織が悪さをするのではない。悪事をおこなうのは人間である。

 わたしは民営化の少し前に、ある県の郵便局の職員(組合員)100人インタビューをおこなった。民間企業との著しい違いを感じたのは、上からの指示のほとんどが掲示板に貼り出されたペーパーのみで、上司から口頭などで直接伝達されることがほとんどないことだった。

 いわゆる人事的システムが機能してない。ほとんど存在していないという感じであった。確かに人事異動などはみんなが関心をもっているから、掲示されたものを職員が自発的に見るというのはわかるが、仕事の機微にわたる内容が掲示だけでおこなわれていることには違和感をもった。

 だから、こんな具合で20万人以上の巨大組織が日々きちんと動いているのは圧巻であり、不思議である。これ、率直な感想であった。

 当時は総合担務といって、郵便配達員が、郵便配達だけではなく、郵便貯金を集めたり、簡易保険のセールスをやっていた。手当が稼げるから上等だという人もいるらしいが、わたしがインタビューしている人は誰も歓迎していなかった。なにしろ郵便局と銀行と保険の3つの仕事を兼ねるのだから、よほどの超人でなければ歓迎できるものではない。

 もう1つ驚いたのは、人事交流と称して、ベテランの配達員を他地域へ紙切れ一枚で配置転換する。その理屈は、ベテランを他地域へ配転して、彼のパワーで周辺を指導してもらうという。しかし、郵便配達員は地図を肉体化している。どこのお宅はおばあちゃんだけで、子どもは東京で働いている。郵便を楽しみにしているみたいな配達先事情も熟知している。富山の薬売りが帳面に事細かに顧客事情を記録しているのを思い浮かべた。

 「わたしは配達地域についてはゼンリンの地図よりよく知っている」と誇らしく話した人もいた。それを、いわば現場体験のないエリートが人事交流という大義名分で破壊していた。適材適所なんて発想がないわけだ。

 当時は民営化反対で、特定郵便局長会と組合も足並みが揃っていたから、ある種の労使一体感があっただろう。しかし、民営化後はひたすら「稼げ」という上意下達だけになっているのであろう。いまの日本郵政グループの人事システムがどんな具合になっているのか知らないけれども、民営化して「けつをひっぱたく」だけの人事管理になっているのではないのか。

 「何がなんでも売上成績を上げろ」と叱咤激励して、成果を上げれば、その職員を厚遇する。新規契約を獲得すれば手当を出す、というのは以前の総合担務とまったく同じである。当時は不正販売が報道を賑わすことはなかった。とすれば、今回、NHKに暴露されるほどに不正販売が徹底したことが、郵政が民営化されたお手柄である、と皮肉の一つも言いたくなる。

 現場の声が経営者に届かないというのは、要するにマネジメントがないのである。号令をかけるだけが経営者だと思っているらしい。すべての不祥事はすべて経営者の責任だという経営者倫理がないのが腹立たしい。

 ここまで書いたら、現職の総務次官が先輩の元総務次官に、総務省が日本郵政グループに下す予定の行政処分の内容を伝えていたという報道が入った。いわゆる上層部の保身作業の一部である。本来の身内意識ではない。出世志向がはびこる組織では、まともなマネジメントが育たない。

 嵐の中、危険を冒して郵便配達にでかけた職員が帰ってくるまで、はらはらやきもきしながら待つ局長がいた。無事に帰ってきた職員をねぎらう局長の瞳がうるんでいた。こんな話を聞いたのは半世紀以上前だ。

 さて、これは日本郵政だけの現実か? 日本全国、働くもの同士の気持ちが通い合っている職場が主流であれば上等であるけれど。