週刊RO通信

個人事業者は労働者である

NO.1333

 最近、四角の箱を背負って自転車で走り回っている若い人をよく見かける。レストランなどから注文を受けた食品を顧客に運ぶ仕事である。次々に新しい業態が登場するものだと、ぼんやり眺めていた。

 ウーバー・テクノロジーズ日本法人に「雇用契約」する方々が、この10月ウーバーイーツ配達員組合を作った。組合は、一方的な報酬引き下げに対して会社との交渉を要求しているが、目下門前払いを食らっている。

 門前払いの理由は、「個人事業者との契約だから雇用関係がなく、労働組合と交渉する義務はない」ということらしい。そして、会社窓口は用事があれば「メールで問い合わせてくれ」という。組合委員長の前葉さんは「(会社側は)AIしか出てこない」と嘆息しておられる。(東京新聞12/6)

 カフカ(1883~1924)の『城』(1926)を思い浮かべた。測量技師Kは「城」に雇われた。「城」へ行こうとするのだが道がわからない。手紙を出すと「城」の長官なる人物から返事がきて、直属の上司は村長だという。

 Kが村長を訪ねると、村長は、測量士は不要だという。村長の伝言で学校の小使いなら雇うというので仕方なく引き受ける。主人公のKは何とかして雇用主に会おうと苦心するのだが、どうしても会えない。

 この場合も雇用者にはきちんとしたマネジメントが存在しない。被雇用者のKが、いかにやきもきしようと、雇用者は痛くも痒くもない。Kにしてみれば雇ったのは仕事があるはずだから、自分の仕事をするためには雇用者の意図を聞かねばならない。

 考えてみれば——マネジメント不在というのは、権力をもつ側がもっとも有利に権力を行使できる方法! である。被雇用者からのフィードバックが一切届かないのだからやり放題である。Kと前葉さんの気持ちが重なる。

 ウーバーイーツの仕事は、スマホ・アプリなどITサイトから受託する。このような仕事はギグ・ワーカー(gig worker)というらしい。単発・短期の仕事で、必要なとき必要なだけ働けますよというのが売りだ。Webで登録して、情報を得て働く。なるほど自由度が高いのは事実である。

 ネット上の宣伝文句は美しい。あなたの知識・時間・スキル・経験を生かして、普通の勤め人みたいに会社に縛り付けられるのではなく、自由に選択して働ける。多様なライフスタイル、ライフステージにふさわしく働ける。

 ただし、賃金は安い、社会保険、退職金などはもちろんない。労働基準法の適用もない。雇用関係がない、労働者ではないというのだから、会社側としては全然考慮外である。

 民法第623条には、雇用の意義が書かれている。「雇用は当事者の一方が相手方に対して労務に服することを約し相手方がこれにその報酬を与うることを約するによりてその効力を生ず」とある。

 民法においては、市民社会における対等同士が契約関係を作るのであるから、取引が対等関係において結ばれる以上、労務の売り手側が報酬引き下げに対して注文をつけた場合、買い手側は、それに応ずるのが筋である。

 さて、自由な働き方ができるという、ギグ・ワーカーは「労働者」ではないのだろうか。労働基準法第9条は、労働者を定義している。「職業の種類を問わず、事業または事業所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう」。そもそも労働者は個人事業者なのである。

 同第11条では、「賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう」とある。労務提供とそれに対する報酬を介しているのだから、労働者である。

 また、同第2条には、労働条件の決定について、「労働者と使用者が対等の立場において、決定すべきものである」と明確に記載してある。働く側において労働条件上の疑問や不満が発生した場合、会社側はきちんと応対するのが当たり前だ。

 ウーバーのCEOは、配車サービスで性的暴行が多発したことに対して、「正しいことは性的暴行を終わらせるためには、(問題を)教え合い、向き合い、行動を起こすことだ」とツイートしたそうだ。雇用のあり方についても、真剣真摯に向き合い、学んで立派なシステムを作り上げてもらいたい。