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官・官合作の化けの皮がはがれたか?

司 高志

 ここのところ好況である、というデータはどうも怪しいと思っていた。そこで筆者は、この閉塞感を表現するには、労働分配率でみるのがよいのではないかという提言をすでに本欄で行っている。

 この閉塞感をダイレクトに示すのは、労働者に支払われた賃金を働く意欲のある人の数で割るのがよいと考えている。つまり(日本全国の支払い総賃金)/(働く意欲のある人の数)が指標であると思う。働く意欲のある人というのは、働こうとしているが職についていない人を含む。この経年変化を見れば、日本全体を包んでいる閉塞感とよく一致するのではなかろうか。

 さて今回は、勤労統計がなぜねじれていったのかを考察してみたい。

 まずは、国家公務員の数には毎年定数削減がかかる。これに対抗するための手法として、定常的なマイナス分は何ともならず、がまんするしかないが、新規の仕事を作って、その分の人数は追加する。こうして結果的な増減は、マイナスのひとけた台前半に抑えられる。

 こういうことを繰り返せば、緩やかながら人は減っていくことになる。人数を減らされた分は、仕事を思い切って捨てればよいのだが、捨てて身軽になったところには、さらに定員削減がかかるという仕組みであるから、絶対に仕事は減らさない。ということで世間の常識は、人が減れば、仕事を減らすのだが、官庁では人が減っても仕事はそのままになることが多い。

 人は減ってしまうのだが、役所にとって重要な仕事は、法令を作って自分の省庁の権限を拡大するか、予算をとって、できる仕事の規模を大きくすること、だいたいはこの二つである。省庁にとって、統計なんぞはどうでもよい部類に入る。そこで、人数が減ったので手抜きをして統計を作ることになる。

 手抜きをして統計を作るにしても、その方向性としての役所の統計結果は、二つの意味で、世の中が、好況であるほうが都合がよい。

 ひとつは、官邸が主導している「なんとかノミクス」で好況に見せかけるためである。実のところ、経済は、息切れ、ヘロヘロで息も絶え絶えになっているところだが、数値上だけでも好況を装っておきたい。まあ、自分がいる間だけの偽りの数字で演出したいのだろう。こういう事情で経済は好況でなければならないのだ。

 次に、増税をして財布の中身を増やしたい官僚側も、好況で労働者の財布の中身が潤ってくれていたほうが、当然のことながら増税がしやすい。実際には実質的な賃金が減っていても見せかけの給料増額で「増税にゴー!!」というわけだ。

 ということで、今回の統計の偽装工作は定員削減という状況の中で、官邸と官僚によって都合よく作成されたあだ花なのである。結果的に、相身互いの官・官合作だった統計偽装の化けの皮がはがれてしまった、ということだろう。

 実感としては、実質賃金はマイナスで間違いなさそうだが、野党の皆様は、数値の作りの誤りばかりを追求するだけではなく、どうやったら実質賃金が増えていくのかをセットで提言しないといつまでたっても支持は集まらない。