論 考

トランプがなぜ受ける!

筆者 奥井禮喜(おくい・れいき)

 トランプの選挙運動には著しい特徴がある。支持者による大規模な集会を開催することである。集まってくるのは熱心なトランプ支持者で、集会自体は支持者拡大をめざしていない。内輪のファンクラブである。

 演出は、信仰宗派の同志的集会か、毛色の変わったトークショー(ロックコンサートを模したような)である。コンセプトは、参加者の仲間意識を盛り上げ、トランプ支持者としての帰属意識を高めることにありそうだ。

 内輪のファンクラブといったが、どの集会においても最前列には超熱心な親衛隊的常連がいて、会場の雰囲気盛り上げを図る。

 最大級の特徴は、やはりトランプの「説教」である。移民がVIP待遇で、あなたがたの権利を奪っているとか、政治権力中枢を闇の力が牛耳っているとか、現状の政治を陰謀論そのものだと罵倒する。いずれにせよ、人のいいあなたがたが現状政治の犠牲者であって、自分トランプこそが救い主であるという、単純すぎる物語が、集会のところ変われどまったく同じに語られる。

 トランプという人物像を分析すれば、思想的にはニヒリズムだろう。なにごとにも価値を見いだせないから、とにかく自分の気持ちが動くままに行動する。ビジョンがないから、破壊者として発言する。扇動者としての能力が大きく、人の不平不満に付け入ることが得意である。

 典型的な見本がある。1950年代に米国政治を大混乱に陥れた上院議員マッカーシー(1908~1957)である。トランプ氏は、彼にきわめてよく似ている。

 マッカーシー事件は、あとからみるとおおかたの米国人がなぜ騙されたのだろうかと思うようなものであった。その体験的教訓は、米国人は使嗾的デマゴギー(そそのかしやけしかけられること)に弱いというものだ。

 なぜ同じ道にさ迷いこむのか。これは米国人だけではないが、要するに学ぶことを停止するからだろう。トランプのアジテーション的政見演説には脈絡が弱いし、同じことを繰り返すだけである。という事実に着目しないから、おかしいことに気づかない。つまり、自分自身が以前とまったく変わっていない。

 「学ぶことを停止すれば人生は停止する」というのは、米国のコピーライターのステビンスの優れたコピーの一つである。

 日本政府・与党筋は、もしトランプが復帰したら大変だというが、本当にそうだろうか。政治的にビジョン、定見なく、その場しのぎの政治をおこなっているのは、トランプ的センスに酷似している。

 トランプ旋風に煽られている米国人を見て奇妙に思う日本人は多いが、トランプ的センスの自民党にもたれかかってきた事実を考えると、なんや、どっちもどっちか、という気分になってしまう。