筆者 奥井禮喜(おくい・れいき)
わたしが組合活動の面白さを知ったのは、現場の人たちの仕事と意見からであった。自分の職場は機械設計なので、ものつくりを担当する現場の人たちと接することが少なくない。もっと厳密にいうと、設計の出来栄えがよければ現場へ出向かなくても品物が出来上がるが、図面ミスが発生するとたちまち現場から電話がかかってくる。受話器を取ると、苦情やらお叱りやらばんばん飛び出す。
職場の設計物は、新規開発がほとんどなので、部品はかなり共通しているとはいえ、現場へ図面を出すために出図会議が開かれる。机を連ねて、図面を広げる。制作の関係者が大挙集まってかんかんがくがくやることになる。図面に間違いがなくても、新規部品などはつくり方が難しかったり面倒である。こんな図面を描きやがって、つくる立場になってみろと怒鳴り声が飛ぶ。しかし、注意してみていると、みなさん結構楽しんでおられる。怒鳴り怒鳴られ和気あいあいだ。
わたしの場合は製作段階になって、しばしば図面ミスが見つかる。ぼろんちょんである。電話がかかってくると、図面を抱えて現場へすっ飛んでいく。班長から「また、お前か」と言われると、うなだれるしかない。にもかかわらず、現場の人たちは親切だ。文句を連ねつつ、問題解決に協力してくれる。わたしがドジした問題なのだが、あれやこれや相談していると共同作業の連帯感! が湧いてくる。叱られつつも、現場へ出ていくのは嫌ではない。
入社3年目の丁稚で、組合役員に立候補した。おおかたの予想は最下位落選であったらしいが、本人はのんきなもので長期出張中、選挙活動は若い仲間たちがせっせとやってくれた。そのかいあって初陣にして当選。それも次点に大差をつけ、上位者との票差はわずかであった。設計に現場の人の票は集まらないのが定評だが、わたしには現場票がかなり集まった。現場の人が言うには、「お前みたいにドジばかりしていると仕事が捗らないから組合へ出しとけという票だ」。しかし、わたしはひそかに、ドジしたときのクイックレスポンス、弁解がましいことを言わないのが好感もたれたのではないかと思った。
非専従役員を4年、書記長・委員長で専従を4年やったが、非専従2期目はダントツトップ当選、書記長・委員長はいずれも競争相手なしであった。「御用聞き」と呼んでいたが、毎日2~3時間程度は職場へ行く。歩いていれば何か見つける。少し余裕のありそうな人がいると話し込む。なにしろ、みなさんが取り組んでいる仕事はすべて話題の対象になる。少し知り合いになって、声をかけてくれることが増える。こうなると人に会いに行くのは大いに楽しい。
経営政策は職場の事情を踏まえて組み立てられるはずだが、働いている人の見方は切実である。とかく経営は数字先行になりやすいから、裏を取って歩くつもりだ。経営問題を話し合うとき、非常に有益であった。
いまならパワハラ問題のある課長をひざ詰め談判してとっちめたこともある。こんな手柄を立てると、黙っていても噂は広がる。パワハラを告発制度や規則で排除するのは当然だが、その前にやれることがある。職場の仲間同士がしっかり話し合える職場では、パワハラは少ない。課長に権限があるとはいえ、みんなが納得しないような発言はできないからだ。いまの職場では働く人同士の付き合いがなさすぎる。お互いが理解していないのは、上司の不心得な発言が出やすい。法律を勉強するのは大事だが、さらなる大事は仲間の強固な連帯意識である。それがあるから法律が守られる。
組合役員を辞職して組合応援団の活動を開始したが、組合に提言する際、インタビューをしばしばおこなった。面識がない人であっても、1時間も話せばそこそこ貴重な見識が得られる。インタビューというと、質問をずらっと並べて一つひとつ聞くのが普通だが、これは実はダメだ。紙切れのアンケートとほとんど変わらない。こんなことで1時間も付き合わされると大方の人は嫌気がさす。
インタビュー成功の秘訣はたった一つである。相手から話を聞き出すのではない。相手の話を聞くのである。誰でも、悩みや問題意識を抱えて暮らしている。そのどこかに点火すれば、インタビュアーはひたすら話を聞くことになる。わたしはいつもパソコンにメモ取りつつ聞く。終わってから整理すると、少ない人でもA4で2枚程度になる。宝の山である。
わたしは職場回りが足場になったので、アンケートはほとんど使わない。自分が回答してみればわかるが、実にあほらしい。手間が嫌になるだけだ。しかも、アンケート結果は、ほとんどアンケートしなくてもわかっているような傾向だ。本当に聞きたいのは、「なぜ」「どうして」ということである。それがわからなければアンケートなど無意味である。
いまの組合活動は、組合役員活動である。本尊の組合員が参加した活動などほとんど見えない。これでは組合活動を活性化できない。なぜか? 役員が組合員のところへ行かないからである。事務所に座していてのでは何も情報が集まらない。人の気持ちがわからずして、組合活動ができるわけはない。もちろん、運動方針にしても立派なものが作られていても、組合員が具体的に行動するものはきわめて少ない。
組合費は、組合機関を維持するために集めるのではない。組合員が参加・行動する要求活動をおこなうのが目的である。いま、組合活動家は、組合員が参加する組合活動をめざして知恵を絞っているだろうか。組合員の要求や、連帯したい要求を引き出すには、まず、組合員一人ひとりの見識をネットワークすることから挑戦してほしい。
