月刊ライフビジョン | ビジネスフロント

どいつもこいつも根は一緒

司 高志

 今、日本は好況らしい。9月3日、財務省の発表した法人企業統計によれば、企業の内部留保と設備投資は過去最高になっている。それなのになぜ好況の実感がないのか。今回はこれを掘り下げてみたい。

 ◆財務省の先の統計にはこんな数値もある。労働分配率。企業の稼ぎに対する人件費の割合である。こちらは、去年に比べて下がっているのだ。

 内部留保、設備投資と労働分配率の数字から言える一つの仮説は、企業はせっせと設備投資をしながら内部留保も増やしたが、その割に労働者の給料は増やしていない、という姿である。この国は戦争に負けてから驚異的な復興を遂げ、経済一流、政治は三流と言われるまでに回復したが、これは見せかけの繁栄だったのだ。

 企業を宴会村の座席に例えてみよう。宴会村では酒や肴(賃金労働条件)が振る舞われ、皆ドンチャンドンチャンと宴会(仕事)をやっている。驚異的な復興は、宴会村が座席数をコントロールすることによって得られた虚栄の繁栄だったのである。

 ◆まずはサービス残業(サビ残)から。とにもかくにも宴会村の座席数(社員数)をセーブし、残業なしでは盛り上がらないくらいの少人数で宴会(仕事)を行う。夜中まで宴会をした人には夜中の分も割り増しして酒や肴を振る舞うはずが、酒・肴なしで宴会をさせられる。つまり計画的にサビ残を織り込んで宴席の数をコントロールできるのが、宴会村の特徴である。

 ◆次に正規・非正規だが、これも労働者派遣法ができたおかげで、大っぴらに非正規を組み入れた宴席がセットできるようになったので、次には正規の人の座席数を減らすようにコントロールした。それが今回は一歩進んで、有期雇用から無期雇用への転換ができるようになったと同時に、無期雇用席の数をゼロにするため、無期雇用へ転換の人への雇い止めをせっせと実行したというわけである。

 ◆医大の男子学生優遇は、これも宴会村による席のコントロールである。医師には男子も女子もいる。ところが医大の宴会村では、できれば男子のみで宴会をしたかったのだ。もともと医大の宴会村が、女子だけで宴会を行えるように設計していれば、男子が入ってもみんなが楽になる方向だから問題ない。しかし、酒や肴を節約するため、仕事に無理がきく男子の医師のみで宴会を設計すれば、無理がきかない女子の席はいらなくなる。つまり、大学の入り口部分で、点数の操作をして女子を入りにくくした、というわけである。

 ◆国家公務員の障害者雇用率の水増しにしても、国家公務員には障害者席は元から用意されていない。国家公務員試験に合格する障害者の数をカウントするだけでは、雇用率が達成できないのは、明らかである。

 企業向けの雇用率のカウントには、障害者手帳の確認や医師の診断などを要件としていたのであるが、省庁向けには「原則として障害者の等級に該当する者」という具合に、曖昧さを残す表現になっていた。これを頼りに、出勤できなくなった者や健康診断の時のデータをもとに、この人たちを「該当する者」として、障害者にカウントしていたわけである。

 最後に、日本国という総合宴会プロデューサーは時々、宴会村に点滴やカンフル剤を配ってきた。今までは宴席を盛り上げる人にどうにか行き渡っていたが、近年この方法は有効でなくなってきた。しかも酒はだんだん水っぽくなり、肴はまずくなっている。

 正規・非正規、雇い止め、サビ残、医大の優遇、水増し…、みんな根っこは同じこと。労働分配率を上げる方策をしないと、宴会疲れでみんな危険な状態になる。宴会プロデューサーは、みんなが元気になる宴会を企画してくれ。でないと「働き害」のある社会になってしまうのは目に見えている。