月刊ライフビジョン | ビジネスフロント

シリコンバレーの働き方事情

司 高志

 ライフビジョン学会の公開学習会に参加したところ、興味深い報告があった。

 アメリカのシリコンバレーでの働き方だが、非常に理に適った方式である。少数のITスペシャリストを集めて、マネージャーが個々の能力がフルに発揮されるようにマネジメントする方式である。これだとパワハラをやっている暇などはなかろう。マネージャーは組織の価値を最大化するように機能するから、効率がよく、強い組織ができるのは当然である。

 だが、これがアメリカでの主な組織経営の方法なのかは、情報が少なくてよくわからなかった。対比されたのは日本の会社でのパワハラが起こる様子である。

 日本においても、IT関連でいうなら、小さな会社で少数のITエンジニアがうまく仕事を分担すれば、大企業の役員クラスの給料はたたき出せるという話は聞いたことがある。

 筆者は、アメリカでは職業人生がどのように始まるのかも、その後の転職事情もわからないので多くは推測だが、一番の疑問は、才能のない凡人はどうなるのか、ということである。

 おそらくシリコンバレーは、ある程度特殊な才能を持った人の集まりだ。シリコンバレー以外には、世間から注目される非凡な才能がそうそういるとも限らない。

 人生双六のような出世の道があるのだろうか? 筆者の推測だと、下働きは、一生下働きから抜け出せないような気がする。

 日本では、年功序列や終身雇用の弊害はありながら、一つの会社で教育され、社内だけでしか通用しないかもしれないが、それなりのスキルも身につき、出世もし、給料も上がっていく。凡人にとっては、よいシステムのような気もする。

 ただ、日本の就職では、振り出しのスタートが重要で、ここで出遅れると挽回がきかないような日本の全体システムができあがっているように見える。

 また日本全体では、転職すると必ず給料が下がる仕組みを、ほぼ全社が申し合わせたように実行しているように見える。不思議なことだ。

 普通に考察すれば、転職した人が給料が下がるシステムを多くの会社が採用しているなら、人がやらない高い給料で転職させようという逆張りの思考があってもいいはずだ。だがどの会社も横一線だ。

 日本では狭い国内で、しのぎを削って競うから、社員の給料を下げた会社が勝つというなんとも皮肉な状況になっている。人手が足りないのも、ファストフードやコンビニなど安くてよく働いてくれる人の不足であって、組織のトップ層で稼ぐ人は、あまり必要でないということだろう。

 最初に雇われた安い給料のままで職業人生を終えるような仕組みを作ってしまうと、その場は儲かっても結局のところ、次の世代を育成することができなくなるので、人口は減少し、働き手がどんどん減少し、同時に消費者も減るという、これまたなんとも皮肉な結果になっている。凡人を成長させて給料も上がるようなことをしないと、日本の持続可能性は行き詰まる。

 凡人がどうすればよいかというアメリカでのレポートも聞きたいと思うし、日本では、凡人でもどうにか暮らしていける独自システムを模索する必要があるだろう。

 会社の仕組みとしては、弱肉強食が過ぎてもいけないが、成果を出した人も横並びでしか処遇されないとなれば、これまた発展が阻害される。

 筆者が思うに、一番欠けているのは人を見る目ではなかろうか。これを補うには、上司が部下を評価するだけではなく、部下が上司の評価をしたりという、関係者がみんなで評価するなどして、評価制度で補いしかないだろう。もちろん社長はみんなに評価されないとだめだが、日本では治外法権になりそうだが。