月刊ライフビジョン | off Duty

高齢女性おひとりさま別世界に跳ぶ

曽野緋暮子

 82才のY子さん、72才のR子さんと私。「おとな女子」と言うより「三婆」でランチ。何を思ったのかY子さんがご馳走してくれると言う。LINEでのやり取りはあるが、Y子さんに会うのは数年振り。待ち合わせ場所にサーモンピンクのジャケットを着てゆっくりとした歩調で現れた。何をするのもゆっくり、マイペースじゃないと動けないと言っていたが、足取りはしっかり、元気そうで安心した。

 台風一過の爽やかな秋空、室内にいても気持ちが良い。久々なのでビールで軽く乾杯!

 お喋りのスタートはやっぱり健康。R子さん「血圧の薬が1日1錠になったけれど、止められないみたい。筋肉が衰えて歩けなると困るからテレビで宣伝しているサプリメントも飲み始めたのよ。Y子さんもサプリメント飲んだら良いのに。」

 Y子さん。「私は糖尿病の他にもいろいろあり朝8種類、夜は5種類の薬を飲むので、薬だけでお腹が一杯になりそう。」その上サプリメントなんて考えられないと話を受ける。私が「お昼は飲む薬はないの?」と聞くと、お昼も貰っているけれど飲まないのだという。いつもなら、高齢者がそんな薬の無駄遣いするから健康保険財政が苦しくなるんだよと突っ込む私だが、82才を前に「うん、うん」と相槌を打つばかり。

 数年前に夫に先立たれたY子さん。遠隔地に暮らす息子達は一緒に暮らそうと言ってくれるが、今は一人暮らし。夫が生存中は年に何度かのクルージングを楽しんでいたが、一人になってからは海外は止めて、同じ港発着の国内クルージング、それも二泊か三泊のショートクルージングだそうだ。クルージングは船を降りて観光に出かけるのが億劫な時は、船に残って読書したりスケッチしたりと、一人での時間が楽しめるのが良いそうだ。

 船に残る人達が楽しめるように様々なプログラムも用意してある。広い会場で生演奏で踊れるのが魅力で、社交ダンスを習っているグループの乗船も多い。ディナー後の本番に備えて昼間はレッスンもある。さらに圧倒的に多い女性客のために「りぼんちゃん」と呼ばれる男子大学生が、ダンスのアテンダントとして待機している。高齢女性おひとりさま用のサービスが整っているようだ。

 夫に先立たれて始めた川柳も楽しんでいる。以前は例会で一席に入ったとか三席だったので残念とか言っていたが、今では選者になり、自分の句作と選句で超多忙らしい。例会の後の居酒屋での懇親会も楽しくて、飲食より皆のお喋りで別世界に跳ぶのが魅力だとか。

 R子さんは若い時から絵画一筋。いくつかのサークルに入っているので、こちらも作画に追われる日々。合間にスケッチ旅行や美術館巡りが入るので彼女も超多忙。

 情けないことに三人の中で一番若くて、薬も一切飲んでいない私が結局、これと言ったことは何にもしていないなぁ~。Y子さんが言っていた。「ひとりで回転寿司に入って、あの小さいラーメンを食べたい。」先輩達に圧倒された感の私。そうだ!ちっちゃくても何か新しいことにチャレンジしよう!!!