月刊ライフビジョン | 地域を生きる

どちらが有益? 客寄せ施設か文化施設か

薗田碩哉

小さな町の図書館戦争-3

 郊外の巨大団地の商店街で、地元の人々に愛されてきた小さな公共図書館、それを市は一方的に廃止しようとしている。これはいったい、いかなる意図によるものなのだろうか。市の言い分は、これからの人口減少社会において市の財政は厳しくなる一方、お金のかかる公共施設はできるだけ減らさなくてはというのだが、この鶴川図書館の維持管理費は、人件費を除けばたったの654万円に過ぎない。人件費だって専任の管理職と数人の嘱託職員でこなしているのだから、それほど巨額とは言えない。しかもこの図書館は8館ある市内の図書館のうち最も小規模でありながら4番目によく利用されている人気の図書館なのである。

 財政難と言いながら、市はかなりの大盤ふるまいをしている。市がサポートするレベルのサッカーチームが割合好成績でJ1リーグに上がる可能性があるというので、10億円もかけてスタジアムを1規格にするべく客席の増設を進めている。ところがこの競技場、最寄り駅から4km以上も離れた山奥で、定期バスは1時間に1本、試合となれば一本道は大渋滞となる。おまけに今年は成績が低迷して1に上がるなんて気づかいはまるで不要だ。1万5千人に増やした客席が満員になるなんてとても思えない。

 他にも市の中心部にある静かな自然公園に遊興施設を作って観光地化するのに16億円、多摩モノレールの延伸を推進するのに3.5億円もの予算を付け、博物館を廃止しておいて新たに美術工芸館を建設するという計画も動き出している。集客効果のある施設を作って金を稼ごうという魂胆なのだが、果たして目論見通りいくだろうか。あてにならない外からのお客さんより、まずは市民の文化ニーズにきちんと応えるのが市政の根幹のはずである。

 ますます進行する少子高齢社会に対処する地域の課題は、まずは子育てのしやすい町を作ることであり、合わせて高齢者が健康で生き生きと生きられる環境を整えることであるはずだ。子どもが子どもらしく元気に育つためには、身近な公園やいつでも立ち寄れる図書館が重要な意味を持つことは言うまでもない。リタイアした高齢者の日常を豊かにするために、また深刻度を増しつつある認知症の予防のためにも、地域の図書館の存在価値は大きい。子育て環境の充実や高齢者の文化活動に投資することは、決して公金の無駄遣いではない。子どもが増えれば人口減少を食い止められるし、高齢者が元気になれば介護経費の削減につながる。図書館をはじめとする教育文化費は、費用対効果の観点から見ても、巨大スポーツ施設の建設費・維持費よりも割のいいお金の使い方だと言うべきだ。

 どうやらこの町の首長や役所のお偉方は「文化」がお嫌いなのだろう。プロ・スポーツの観戦で盛り上がるのは歓迎だが、本など読んで余計なことを考え、市政を批判したり自由だの権利だのと喚いたりする人民など見たくないのかもしれない。あるいは図書館愛好者などしょせん少数派に過ぎないから、公共施設削減計画の手始めに、まずは抵抗の少なそうな文化施設を血祭りにあげて実績を積みあげようというねらいもありそうだ。行政がいったん決めたことをどうこう言われたくない、という「お上」至上的な体質も抜きがたく存在する。

 甘く見られた文化派市民としては、一寸の虫にも五分の魂、そんなに簡単には参りませんという姿勢を粘り強く見せ続けるしかない。幸い、商店街のバザーや夏祭りに古本屋を開業、事態の深刻さをアピールして賛同署名を集めてきた。高齢者や子育て中の父親母親はもちろん、かわいい小学生たちも「図書館がなくなっちゃいやだ」と力を込めて名前を書いてくれた。われわれの図書館を守るために何ができるか、正攻法からゲリラ戦まで秋の陣の作戦を練っている。

《団地商店街の夏祭りに出店》

 7月末に行われた団地祭に「鶴川図書館大好きの会」も1店舗を構え、子どもの絵本や大人向けの古本を売りながら「私たちの町に図書館を残してください」と訴えた。たくさんの署名が集まり、古本も25000円ほど売り上げた。


薗田碩哉(そのだ せきや) 1943年、みなと横浜生まれ。日本レクリエーション協会で30年活動した後、女子短大で16年、余暇と遊びを教えていた。東京都町田市の里山で自然型幼児園を30年経営、現在は地域のNPOで遊びのまちづくりを推進中。NPOさんさんくらぶ理事長。