月刊ライフビジョン | 家元登場

世界のアウトロー大阪に集う

奥井禮喜
それぞれの神を戴く危ない紳士たち

 G20の皆さま全員集合の記念写真を見て、どうもお尻がもぞもぞする。パッと目に入ったのがエルドアン、トランプ、サルマン、安倍と並ぶ4氏のご機嫌の表情である。サルマン氏は、昨年サウジのカショギ記者殺害の指示をしたと米中央情報局が結論づけた。サウジは王室の関与を否定しているが、国連でも大問題になっている。フェイク大統領トランプ氏はサルマン氏関与をなぜか否定した。エルドアン氏は、ついさきほどイスタンブール市長選挙で、自分の党の公正発展党の候補者が僅差で敗退したので選挙に不正ありと難癖つけて再選挙させた。堂々たる差をつけて再び共和人民党のイマモール氏が勝利した。目下何かとお騒がせの有名人が並んでいるのは圧巻というべきか。世界的に影響力があるとされる面々の、その道徳・倫理的な怪しさを思うとため息が出る。法律に基づいて働くはずの政治家がアウトローに見えるのは困ったものだ。不気味な世界である。

小心細心不信疑心

 プーチン氏は、G20前日フィナンシャルタイムズのインタビューで、欧米で国家主義的な大衆迎合主義が勢力を伸ばしていることから、自由主義思想はもはや力を失ったと語った。氏は国家主義で突き進んできているし、自由と民主主義を要求する国内勢力が目障りで仕方がない。AFPは、G20で氏が持参のマイ・グラスで飲んでいる動画を流した。16年に来日して山口県のホテルに宿泊したときは、コックを10人くらい引き連れてきたという報道もあった。大昔、清の李鴻章が訪米した際、歓迎宴での中華料理にまったく手をつけず、宴が果て、引き連れてきたコックに宴会料理を再度調理させて食べたという話を思い出した。新興国の偽中華料理など食べられるかという気分であったか。国家主義を宣揚するには食事まで意気軒高たるところを見せねばならないらしい。プーチン氏のマイ・グラスには、被害妄想説も出ているそうだ。なるほど独裁者になれば容易に辞められないか。

掟は自由・公平・無差別・開放…?

 G20では、「自由で公平、無差別な貿易投資環境を実現し市場を開放的に保つよう努力する」という結論になった。「保護主義反対」という刺激的な言葉を避けて体裁を整えた。まあ、多数決でやってしまえというつもりはないが、せっかく史上最高の日米関係にあるらしいから、米国第一主義が正しくないことを語って、「世界の真ん中で輝くニッポン」の片鱗を見せてもらいたかった。もちろん、わが政府にそんな覇気があると思っているわけではない。それどころか、命綱の安保条約を揺さぶって、貿易交渉を有利にしようとするトランプ戦略に頭を抱え込まねばならないだろう。武者小路実篤ばりの「仲良き事は美しき哉」が通用すると考えているのでもあるまい。外交に小才で臨むわが外交を見ていると、とても気分爽快とはいかない。戦後日本の総決算どころか、講和条約締結以前に逆流しているような心地になる。日本外交のひ弱さを露見させるG20の開催になった。

世界の未来を20カ国が統べる是非

 G20が開始したのは1999年の財務・中央銀行総裁会議からで、いまのG20は2008年の米国発世界金融危機の真っただ中であった。当時は、少なくとも、世界危機をなんとかしなければならないという危機感が共有されていた。いまはどうか! 各国とも人とおカネと時間をつぎ込んで参集する。議論沸騰、激論展開ということになってもいいではないか。20か国のGDPは世界の90%、貿易は80%、人口は2/3である。人類の未来を真剣真摯に模索するならば、十分に意義があるイベントになる。しかし、形式的な行事をこなし、各国がばらばらの短時間の首脳会談をこなすだけであれば、G20そのものの意義は薄い。芸能界のスター勢揃いとは違うはずだ。お互いの議論を組み合わせることなく、パッチワークもどきの声明を発するだけならば、大々的に開催するほどのものではない。素人芝居であっても、もっと本気が感じられる。なにをかいわんや。


奥井禮喜
有限会社ライフビジョン代表取締役 経営労働評論家、OnLineJournalライフビジョン発行人