月刊ライフビジョン | 社労士の目から

定年後再雇用と雇用契約法20条

石山浩一

 昨年5月13日に東京地裁は長澤運輸の運転手が定年後再雇用も同じ業務にもかかわらず、賃金を減額したのは労働契約法(以下労契法)に違反すると判断したことは本欄で既述の通りである。
 しかし昨年11月2日、東京高裁は「定年後に賃金が引き下げられるのは社会的に容認されており、一定の合理性がある」として一審・東京地裁判決を取り消し、請求を却下した。

「20条違反」とした東京地裁判決の判旨

 (1)定年後の再雇用の労契法20条の適用については、期間の定めのある労働契約であることから適用されるとしている。無期契約労働者との間に労働条件の相違が生じたのは有期雇用契約によると解するのが相当としている。
 (2)生じた労働条件の相違が不合理であるか否かについては、一切の事情を総合的に判断すべきで、①職務の内容及び②当該職務の内容及び配置の変更の範囲を明示していることに照らしてみれば、①と②は20条の重要な位置と考慮される。③特段の事情については、一般的に定年後の継続雇用について、賃金コストを抑制しつつ定年者の雇用を確保するため賃金を引き下げることには合理性が認められるというべきである。しかし、①職務の内容及び②当該職務の内容及び配置の変更の範囲が、全く変わらないまま賃金だけ引下ることが広く行われているは認める証拠がない、としている。

(労働契約法第20条)

 有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲 その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。

「社会的に容認」とした東京高裁判決の判旨

 (1) 定年後再雇用の労契法適用については東京地裁と同様に適用されるとしている。
 (2) 定年後再雇用の労働条件については、①および②の要件を重視するのではなく③の、その他の事情を含めて幅広く総合的に判断するとしている。そのうえで、再雇用者の賃金減額は「社会的に容認されている」とし、60歳以上の高齢者の雇用確保が企業に義務つけられている中で、賃金節約のため再雇用者の賃金を減額することは「不合理とは言えない」としている。同時に、再雇用者に調整金を支給して賃金減額の幅を少なくする努力をしていることなどを考慮し、賃金が20%強下がったものの同規模の他企業より減額した割合が低いことから、労契法に違反しないとしたのである。
 高裁判決後、原告弁護士は速やかに上告の手続きをするという。

注視される最高裁の判断

 「同一労働同一賃金」が紙上を賑わしている中での今回の事件は、1審と2審の判断が分かれる結果となっている。
 法律の主旨は、有期雇用労働者(含むパート)であることを理由に労働条件に格差を設けてはならないということである。60歳定年者は再雇用後に1年ごとに契約更新するが、高齢者雇用安定法によって65歳まで雇用を継続できる。定年退職者は法によって雇用が裏付けられており、雇用が不安定な有期雇用労働者とは異なること、定年後も雇用を継続するか退職するかを選択できること、65歳定年の場合は有期雇用ではないが60歳で賃金を引下げるのが一般的であること、高年齢雇用継続給付金によって賃金がカバーされていること、こうしたことから定年後再雇用者には労契法20条はなじまないのではないか。
 いずれにしても最高裁の判断が気になる事件である。


石山浩一 
特定社会保険労務士。ライフビジョン学会代表。20年間に及ぶ労働組合専従の経験を生かし、経営者と従業員の橋渡しを目指す。
http://wwwc.dcns.ne.jp/~stone3/