月刊ライフビジョン | 社労士の目から

利便性損なうマイナンバーの戸惑い

石山浩一

 政府は、マイナンバーカードを2020年から健康保険証として使用できるようにするという。現在のマイナンバーカードの普及率が12.6%と低いため、普及率を高める狙いのようです。平成27年10月からスタートしたマイナンバー制度ですが、実際の活用は少なく、ある意味宝のもち腐れともいえそうです。

マイナンバーで役所の業務負担が増加?

 先日印鑑証明書が必要になり、印鑑登録証カードを持って近くのスーパーへ行きました。そこには証明書自動交付機があり、支所や区役所へ行かなくても、ある程度の証明書は取ることができるはずでした。しかし証明書自動交付機があった場所には、子供のおもちゃが出てくる機械があるだけです。サービスカンターで聞いたら半年くらい前に撤去されたとのことでした。

 翌日支所へ行って係員に印鑑証明書発行を頼んだところ、印鑑登録証では発行できず、マイナンバーカードが必要とのことでした。マイナンバーカードは紛失するのが怖いので作ってない。これまでマイナンバーカードがなくて困ったことはなかったのに、たかが印鑑証明書で右往左往するとは思いもよりませんでした。仕方なく区役所へ行き印鑑登録証の番号を書類に書いて申請し、待つこと10数分でマイカードを手にすることができました。

 従来の方式なら印鑑登録証で自動交付機から入手でき、人手はゼロです。しかし、マイナンバー制度によって区役所で申請書を書き、係員に請求して手渡しで受け取ることになったのです。経験はしていませんが、印鑑証明書だけではなく他の証明書関係でも起こっている現象と思います。マイナンバーで区民(国民)が不便になり、区役所(行政)の負担が増加しているようでは、何のためのマイナンバーかと疑問に感じたものでした。

厳しい情報管理で余分な出費

 2015年6月1日、日本年金機構では度重なる標的型攻撃メールにより125万件(101万4,653人分)もの個人情報漏洩が起きました。業務上マイナンバーの取り扱いが発生することにより、サイバー攻撃の深刻な被害が予想される法人などはもとより、ささやかな個人事務所でも個人情報の厳しい管理が求められています。

 マイナンバーは、お金が絡む書類には記載が義務つけられています。求職者給付などの雇用保険関係では14種類に、傷病手当金などの健康保険関係では27種類に、年金の資格取得や確認・請求など年金関係に、さらに労災による給付にも個人のナンバー記載が必要です。

 こうした書類の情報漏洩防止のために、次のような防止策が義務つけられています。

 一つは物理的安全管理措置です。特定個人情報(マイナンバーに含まれる個人情報)などの情報漏洩を防止するために、特定個人情報を管理する区域(管理区域)とそれを扱う区域(取扱区域)を明確にし、物理的な安全管理措置を講ずることとなっています。そのため管理区域への入室管理や書類は施錠できるキャビネットに保管することになり、取扱区域ではパソコンのパスワードによる保護、外部からの不正アクセスを制御するための識別や認証するソフトを備えることになります。

 これらへの対応には投資が必要となり、零細な個人事業主には大きな負担となっています。書類の管理などの労的負担と設備等への経済的負担が、どれだけ国民の利便性に寄与しているかも疑問です。

懸念される課題の実現

 確定申告の時期です。企業等が賃金などを支払えば、税務署は支払先がマイナンバーで確定するはずです。しかし相変わらず、申告書には支払い事業主から送付された源泉徴収票の添付が必要です。そのため、企業等は源泉徴収票を作成し、送付する手間や送付料がかかり、申告する人も源泉徴収票の添付の手間がかかります。

 マイナンバーの目的には、①公平・公正な社会の実現、②行政の効率化、③国民の利便性があったはずです。これがどれだけ実現できているか、政府は公表すべきです。


石山浩一
特定社会保険労務士。ライフビジョン学会代表。20年間に及ぶ労働組合専従の経験を生かし、経営者と従業員の橋渡しを目指す。   http://wwwc.dcns.ne.jp/~stone3/