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外国人の働き方改革? 入管法の改正

石山浩一

 昨年12月8日未明に野党が反対する中、「出入国管理及び難民認定法」(入管法)が改正されました。改正の趣旨は人手不足の解消を目的とし、今年から5年間で34万人の外国人を受け入れるというものです。昨年10月末で約146万人の外国人が工場や流通関係等で働いていますが、5年後には国内で働く外国人は180万人強となり、就業者数の3%弱となります。それによる課題が浮き彫りとなっていますが、その解消は可能なのだろうか。

外国人が日本で働くことができる条件

 外国人が入管法上で就労可能な条件は次の通りです。

 ① 専門的・技術的分野での在留が認められている外国人で、29.3万人が働いています。上陸許可の基準は「我が国の産業及び国民生活に与える影響その他の事情」を勘案して定められています。大学教授やカルロス・ゴーン日産自動車元会長など企業の経営者、それに政府機関や民間の研究者などです。日本で活躍するプロスポーツ選手なども含まれます。

 ② 2世・3世などの身分に基づき定住を認められている外国人で、49.5万人が働いています。これらの外国人は在留中の活動に制限がないため、様々な分野で働いています。ブラジル人やペルー人などで、自動車産業で働く人が多いようです。リーマンショック時の大量解雇の発生が社会問題になりました。さらに日本人の配偶者なども含まれます。

 ③ 今回の法律改正の主たる目的は技能実習制度の拡充にありますが、現在この制度で働いている外国人は30.8万人います。この制度は1993年に「研修」及び「特定活動」として在留資格が与えられてスタートしました。当初は研修生として採用されたため労働者としての保護が与えられず、長時間労働や低賃金などで多くのトラブルを引き起こしました。そのため2007年に法律の改正が行われ、労働者として労働法制が適用されるようになっています。

 ④ 資格外活動として留学生のアルバイトが認められています。留学生としての活動を阻害しない範囲として週28時間、休暇中は週40時間の就労が認められています。現在の人数は34.3万人で定住者に次ぐ人数となっています。特に人手不足に悩むコンビニや居酒屋等の流通業界で働く人が多く、外国人の客に外国人の店員が応対する風景を見かけることがあります。

 ⑤ 特定活動として在留が認められて働いている外国人が2.6万人います。EPA締結国間での経済取引の円滑化、経済制度の調和、および、サービス・投資・電子商取引などのさまざまな経済領域での連携強化・協力の促進などに基づく外国人就業者です。主に人手不足に悩む介護関係の企業等が東南アジア等から採用しています。ワーキングホリデーによる就業もこのカテゴリーに含まれます。

新たな在留資格の創設

 今回の法律改正で外国人の在留条件に「特定技能1号」と「特定技能2号」が創設されました。

 特定技能1号は人材不足産業の人手不足をカバーすること主として、相当程度の知識又は経験を要する技能を必要とする業務に従事する外国人向けの資格となっています。最長5年まで在留が可能ですが、家族の帯同は認められません。一方、特定技能資格2号は同じように人手不足産業の人手をカバーすることで、その業種に関して熟練した技能を要する業務に従事する外国人向けの資格となっています。そして特定技能2号者については在留期間の制限はなく、配偶者と子供の在留資格も付与されます。特定技能1号は単純労働や1次産業から3次産業まで、幅広い業種で職種は限定されますが就業可能となっています。特定技能2号については、建設及び造船・船舶工業の2業種で21年度に試験を行う予定となっています。技能実習制度は開発途上地域の経済発展を担う養成が目的ですが、特定技能制度は人材不足の業種の労働力確保が目的となっています。

懸念される課題

 法律は4月1日から施行されますが、受け入れのプロセス、受け入れ機関に関する規定、外国人に対する支援等の整備はまだ決まっていません。在留資格に伴う各種の機関や規定の整備も大事ですが、特定技能1号・2号に現在働いている技能実習生を含めた外国人労働者の社会保険適用などが、大きな課題として挙げられています。永住権がなく5年程度で帰国した時の年金は帰国後に一時金で支給されますが、その額は支払い額に遠く及びません。本人の意思によらない帰国であれば法的な支援も必要に思われます。その他、技能実習生などの外国人労働者について、言葉や文化の違いなど多くの問題が指摘されています。特に実習生の昨年1年での失踪者が7千人を超し、過去5年間では2万6千人となっているのです。

 日本の人口減少によって人手不足はこれからも続きます。そうした背景を考えたとき、外国人に「5年間働いたら帰りなさい」、というスタンスは改めるべきと思います。都会に限らず地方の観光地にも多くの外国人が訪れ、スーパーやコンビニで買い物をすれば外国人が対応してくれるのです。昨日、伊豆の土肥温泉のホテルに泊まったら、アジア系の若い男女が接客をしていました。日本としてのスタンスは「ぜひ日本で働いて下さい。そして住んで下さい」とあるべきで、そのための法律等の整備を行う時期に来ていると考えるのです。


石山浩一
特定社会保険労務士。ライフビジョン学会代表。20年間に及ぶ労働組合専従の経験を生かし、経営者と従業員の橋渡しを目指す。   http://wwwc.dcns.ne.jp/~stone3/