月刊ライフビジョン | off Duty

昭和の仕事観はパワハラか

曽野緋暮子

 私の2018年は、“定年退職して働く現場から遠ざかっていて良かった”と思う一年であった。昭和生まれの元サラリーウーマンには納得がいかない、数々のできごとを聞いたからだ。

 保険関係の中間管理職をしている後輩がちょっと愚痴る。部下に目標金額の達成を指示したら組合から「パワハラ注意」を受けたそうだ。彼は元高校球児なので言い方に問題アリかもわからないが、自分は部下の目標未達分をカバーするために日曜日にも働いているとのこと。

 「若い人はちょっとキツく言うと辞めちゃうし、中途入社の人も転職が平気らしく、仕事がキツいと言っては辞めるので、入れ替わりが激しいです。」そうだよね。ノルマと言うと厳しく聞こえるけれど、企業に達成目標は付きものなのに。「もう2回もパワハラで注意されましたよ~。そのうち訴えられるかも~。」

 私も昭和の人間だから気持ちはよくわかるけど今の時代、熱くなって仕事をしているとパワハラとかですぐ弁護士登場、訴えられて職を失うことになりかねないから、「仕事はほどほどにして家族との生活を守ることを考えなよ。」と不本意なアドバイスを返した。

 ある新聞記事でブラック企業対策弁護団の弁護士が、過酷な社員研修で心身を守るためにとして、「今日はこれで帰ります、疲れるから、と言える人をつくることが、日本の労働環境の課題だ」と言っていた。これには驚いた。「疲れない仕事があるなら持って来い!」と、思わず独り言した。自分は「ブラック企業」で働いていなかったから言えるのかも知れないが、この記事だけ読んで「ブラックだ!パワハラだ!」と言い立てる若者が出ないことを祈るばかりだ。

 熊本市議会の女性議員が、喉を痛めているので「のど飴」をなめたまま発言しようとしたとして、会議は進行を中断。議員は懲罰委員会が示した陳謝文の朗読を拒否したため退席を求められた。この女性議員は、「昨年7か月の子どもを抱いて議事に臨んだことに対する議会の報復だと考えている」と新聞記事にはあった。喉が痛くてのど飴をなめるのはO.Kだが、仕事の話をする時は飴は口から出すだろう、というのが私達昭和のオバサン仲間の結論だった。例え、のど飴がもったいなくても…。

 年齢に関係のない仲間の集まりで、81才の男性が「10年ぶりに給料を貰っています」と話した。彼はもともと高校教師だった。定年後10年間非常勤で教師を続けてリタイアした。ところが、元気だから小学生の授業をみてほしいと依頼があり、快く現役復帰したそうだ。小学生相手は毎日が楽しいし、給料も貰えるので充実していると笑顔で言われた。いくら教師不足とは言え、またどんなに彼が教師として優秀だとしても、とても不思議な話だと思った。

 近所の元教師とJR内で会ったとき、周りに小学生が数人いた。人手が足りないとのことで定年後教師4年目だそうだ。今は全校生徒11人の小学校にお勤め。ここは生徒11人に対して校長、養護教諭、学年主任、体育教師、男性教師、女性教師そして彼と、これまた手厚いこと。前述の81才現役復帰教師の話をしたところ、昔の教師免許はいつまでも有効だが、彼の年代以降は更新試験が必要だとか。知り合いの中には校長を定年退職後、体育教師として現役復帰続行中の人もいるとか、私の理解が及ばない話が続々出て来る。

 私はいくら帰宅が遅くなっても休日を返上しても、自分の仕事をやり遂げたいし、納得できる仕事ができた喜びは何物にも代えがたい。今の時代に現役だったら、「嫌なパワハラオバサン」として葬り去られたことだろう。