月刊ライフビジョン | 社労士の目から

派遣労働者の7割が他の働き方を希望

石山浩一

 厚労省が10月17日に平成29年「派遣労働者実態調査」を公表しました。この調査は4~5年ごとに行っている派遣労働者の就業実態及び事業所の受け入れ状況等を把握する目的となっています。

 政府は「働き方改革」を掲げて、賃金等の処遇改善に取り組んでいますが、その課題として「同一労働同一賃金」があります。同一労働同一賃金ガイドライン(案)は正規労働者(無期雇用フルタイム労働者)と非正規労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)の間の待遇差の解消を目指すものとされています。その最終目的は「非正規」という言葉を一掃すること。今回の調査は、こうした政府の取り組みが派遣労働者の希望に応えられたのか、その成果を表すものとなりました。

■調査の結果をどう見るか

 派遣労働者に対し今後の働き方への希望について、①派遣労働者以外(正社員、パート等)、➁現状の派遣労働者、③その他、で訊ねた結果は下記の通りとなっています。さらに①の派遣以外で働きたい人の80%『(内)の数字』が、正社員で働きたいと答えています。派遣以外で働きたい人の割合が約50%で、その80%が正社員を希望していることから、派遣労働者全体の40%が正社員を希望していると日経新聞と朝日新聞が報じています。


                          希望の働き方             .    

 派遣労働者数 ※    ①派遣労働者以外 ➁派遣労働者として ③その他  ④不明

総   数  100   48.9 ( 80)    26.8      22.9    1.4       

  男    100   44.4 ( 87)    23.7      29.8    2.0

  女    100   53.3( 76)     29.8      16.2    0.7

年 齢 階 層 

15歳~19歳  100   51.5(100)    34.6      13.9    -

20歳~24歳  100   52.8( 86)     20.6      26.0    0.6

25歳~29歳  100   55.8( 87)     16.8      26.8    0.5

30歳~34歳  100   55.1( 81)     25.3      18.8    0.8

35歳~39歳  100   62.8( 81)     17.6      19.0    1.4

40歳~44歳  100   55.6( 81)     20.4        23.6    0.4

45歳~49歳  100   52.1( 83)        28.7      17.4    1.8

50歳~54歳  100   41.9( 75)        34.4      23.2    0.5

55歳~59歳  100   42.4( 80)        37.4      18.5    1.9

60歳~64歳  100   14.3( 42)        51.4      32.2    2.0

65歳  以上   100      8.4( 28)       46.9      37.9    6.8

①の設問は「派遣労働者以外(正社員、パート等)の就業形態で働きたい」となっています。①の(内)数字は派遣労働者以外で働きたい人のうち、正社員で働きたい人の割合 

■派遣労働者の60%が、現状維持を希望しているのか?

     ――実態ゆがめる新聞見出し――

 この調査を報じた日本経済新聞の見出しは「派遣の4割 正社員希望」で、朝日新聞の見出しは『派遣社員4割「正社員で働きたい」』となっていました。この見出しからは4割以外の6割が派遣労働を希望しているともとることが出来ます。しかし、調査ではその他を希望している人全体で23%、男子は約30%で、派遣を希望する人を上回っています。従って「7割以上が派遣以外を希望」という見出しも可能です。

 派遣という就業形態をどう見るかで見出しが違ってくるはずですが、日経も朝日も同じような見出しだったことに違和感を感じたのです。同一労働同一賃金ガイドライン(案)でも指摘しているように、派遣労働者は非正規であり有期雇用契約の不安定な就業形態とみるべきです。

 また、年齢別では60歳以上の各項目の割合が平均と大きくかけ離れています。定年を迎えて再雇用で働き、多くの人が老齢年金を受給していて現役とは環境が異なっています。それを一緒にしているために現役世代の実態がぼやけているように思います。この場合は60歳以上を分けて調査し、定年延長や再雇用としての雇用形態や労働条件を検証すべきです。

 さらに、③その他の割合が高くなっていますが、これに対するコメントがありません。派遣労働者は民間企業だけでなく行政で働く人の割合もたかく、17年で156万人(37.2%)です。その人たちが①の社員ではなく行政機関の職員などを希望し、③その他を選択した可能性もあります。その他の項目をさらに分析して派遣労働者が希望する就業形態を絞り、希望に応える努力が行政や企業に必要だと思います。そのことが政府の掲げる「同一労働同一賃金」の実現につながることになります。


石山浩一 
特定社会保険労務士。ライフビジョン学会代表。20年間に及ぶ労働組合専従の経験を生かし、経営者と従業員の橋渡しを目指す。   http://wwwc.dcns.ne.jp/~stone3/