LifeVisionSociety

仕事でしたたかに生き残るために

ライフビジョン学会総会2018公開学習会

2018年7月14日(土) 13:00~17:00

国立オリンピック記念青少年総合センター


 問題提起の講演 仕事でしたたかに生き残るために」

 組織の不条理に個人的対策で抗しながら働き続けた公務員・司高志氏が自らの体験をもとに、組織との相克や官僚の働き方について話題提供しました。


科学大好き少年役人になる

 司でございます。某省某地域事務所に勤務中。表向きは某地域で起きたプラント事故によって汚染された環境について、その処理を担当しています。

 これとは別に、法令違反を取り締まる仕事もあります。現政府では防衛省、文科省、財務省などで、あるはずの資料がなくなったり、都合の悪い資料がどんどん出てきたりしているので総理のご機嫌を取って文書管理が強化されている。強化された文書管理に適合させる手伝いもしているので、『法令違反と戦う公務員』(笑い)でもあります。

 数日前に出席したある会議で、配られた資料に書き込みしながら聞いていたところ、会議終了後「資料回収します!」。こうして資料は元からなかったことにされて、法令に適合するというわけで。(笑)

 私は今その、強化した法律に合うように日夜、「回収」、「廃棄」と号令をかけて資料を捨てさせ、「なかったことにする」という仕事もしている。一週間前までは、法令違反と戦う公務員だったが、いまは「転職希望中の公務員」でもある。(笑)

 子供の頃の話をすると、実家の隣は廃品回収業で漫画がたくさんあったことから、子供の頃は漫画好き、手塚治虫の『火の鳥』は衝撃的だった。すごいと思って、科学が好きになった。白黒テレビが出てきて手塚漫画が週に一度、アニメになっていた。

 高校生のころは、「そりゃあすごい考えだ、脳減る(ノーベル)賞だ」とか、給食の残りの腐ったお茶を「うわぁ、放茶能(ほうしゃのう)だ」と言って、理科好き仲間と遊んでいた。

 宇宙戦艦ヤマトのアニメに、放射能の中でしか生きられない宇宙人が地球を征服しようという話があり、放射能をばらまいて地球を征服しようとするのだが、私の中では、原子力はあまり良くないものである、という印象があった。ただ、科学としての原子力・放射線は面白く、悪いなりにも役に立つものなのだと思って勉強していた。私のいた物理学科は、学校の先生か公務員ぐらいしか就職先がない、それでも資格が取れるので、放射線関係の資格を取っていた。

 御多分に漏れず就職はなくて、地元で中学の教員になった。これは正規ではなく先生の足りない時のお手伝いだったが、教員は向かないと思った。その後塾の講師になり、それなりに楽しくやっていた。塾では小学生の国語と英語、理科、そして中学生の英語を教えていた。これはちょっと面白かったが、学校の教員の方は勉強したくない生意気盛りの中学生相手に見切りをつけて一年半で辞めた。それから三年半は、塾の講師をした。

 専任講師とはいえ、コマ数で給料をもらうのもどうかと思い、正規になりたくて、公務員試験を受けた。最初の4年は全敗。大学時代を含めると6年目に合格し、いろんなところを回って最後に残った選択肢が、某大学と某省だった。

 某大学は加速器の放射線でがん治療し、患者の心理的研究もある、文系理系両面ができることから、自分に向いていると思っていたので、合格する気満々だった。そこに某省から面接に来るようにとの電話が来た。某大学の面接のあと某省に面接に行くと、最後に「原子力についてどう思うか」と聞かれた。原子力についてどう思うか――。面接官へのサービスもあって、「必要悪」と応えたが、これが合格したポイントだった気がする。

 原子力のトゲがあるまま手放しで利用しても良いと言う立場ではないが、私は今でも必要悪と思っている。

役所は究極のブラック、心が崩壊する前に辞めるが一番

 さて、役所で何が起きているか。

 仕事では5時ぐらいまで電話がガンガンかかってくる。書類を書くのは夕方9時ぐらいからで、帰るのは終電。これが赴任初日から始まった。一日で辞めたくなり、転職を思った。

 労働時間管理は無いも同じだった。普通の職場と違うのは、労基署が入らないのでやりたい放題の働かせ方であること。残業代は20時間ぐらいしか付かない。人件費はタダだから使い倒せばよいという姿勢だ。

 やがて研修が始まる。研修は5時頃終わるが、終わってから溜まっている仕事を片付けて、帰るのは終電になる。ぎりぎりの時間なので乗り換えに失敗して、タクシーで帰宅したこともある。

 この仕事には心の病気の人が結構多い。無理して辞めないで残っていると心をやられる。やがて役所に出てこられなくなり、次のところに転職しても不調になる人が多い。中には不調になった人に新天地を探すべきという意見もあるが、私の体験では一度心の病気になると、転職しても上手く行かない人が多い感じだ。

 私の同僚などもほとんど辞めている、同期で辞めたのは入社一年で1人、しばらくして1人。わたしと同じ年に入った人はもう、ほとんどいない。本当にデキる人はすぐ辞める。とにかく早く見切りをつけて、心が崩壊する前に脱出するのが正解だ。

詰めまくられて教育(洗脳?)される。

 職場では、仕事の施策を決めた次に、どうやれば役所の中でそれが通るかを叩き込まれる。隠然とした力を持つ誰々の意見とか、関係部署や偉い人の意見は聞いたのか。中身はもちろんだが、誰がどう言っているのかが非常に重要視される。

 世間の人にどういう説明をするか、報道に知られたときになんと責められ、なんと言い逃れるかをシミュレーションする。先輩の指摘に反論できないとダメ、となるから心の弱い人には危険な仕事で、それに耐えられる人だけが、役所に居続けられるタイプとなる。

 「施策」は市民から、議員から、マスコミからの質問に全方位的に反論できるように繕う。役所の偉い人が反対しないかに通じたり、その反応を毎日点検する。こうして役所の考えになじむように、鍛え上げる。これが合わないと思う人は一年以内に辞める。これを私は「洗脳」と思う。

 これは非常にばかばかしいことで、「施策」が良いことか否かではない。そうでないことで徹底的に『詰め』まくられる。役所ではどうしたら内部で話が通るか、世間にはどう対応するか。「詰め」にはエッセンスが集約されている。私もその詰め方のポイントは勉強したが、役所の考え方に100%は馴染まない心は持ち続けた。私は少し違っていた。役所の仕事は非常にばかばかしい。

 標語風に言えば、「教育しないことをOJTという。」誰も教えてくれない。自得あるのみ。詰められることに耐えることが、仕事をマスターすることになる。研修なしで実践に耐えられること。世間で言うOJTとは全く違う。自分で仕事のエッセンスを抜き出して、成長するしかない。ここが一つの分かれ道となる。

 詰めまくられるという体験を通して、自分の頭で考えることを身につければ能力向上につながる。人が言うことはそれとして、そこにどういう弱点があるか、この法令にどういう矛盾点があるかということを、自分で考える習慣をつけるしかないと分かる。

 役所の色に100パーセント染まってはいけない。染まらないところを残さなければならない。こうして自分の頭で考えるトレーニングを続ければ、自分の能力が伸びるとわかる。

その一方で、組織の機能は極限まで低い

 役所では失敗が許されないから、過剰に詰めまくる。詰めなくてもよいところまで詰めるから、時間はいくらでもかかる。これでは役所の機能は絶対に向上しない。

 例えば、国会議員から国会質問の前日の夜8時、議員の質問文が来る。昔は夜の8時にわかればいい方だった。次の日の朝6時、国会で答弁をする局長にインプットするので、一晩でこの「正解」を書かなければならない。役所は国会前には事前にみなでその答えを集めて練り直す。ミスの出来ない状況に置かれ、無駄作業が増える。こうして、国会が始まるころには無味乾燥の答弁集ができている。もし外れても、かなりシミュレーションが行き渡っている。そのような国会対応を日々繰り返している。

 福島第一の事故のとき、時の官房長官は「健康に直ちに影響が無い放射能レベル」だと答えた。放射線は、強力な光であるので、なじみのある強い光、紫外線で考えてみよう。直ちに影響があるというのは、日焼け止めなしで夏の紫外線に当たると皮膚が落ちる。これが直ちに影響が出るレベル。直ちに影響がないとは、冬の日焼けのレベル。夏に比べればたいしたことはない。皮膚がボロボロなんてことはない。だから直ちに影響は出ない。でも、紫外線で活性酸素ができて、癌になる確率が高くなる。これが放射線の影響パターンで、直ちに影響はないが、かといって影響が全くないわけではなく、癌になる確率は上がる。不安をあおらないようにしつつ、でも嘘でもなく、ホントのところからもやや遠いこの中間の微妙な答えを「直ちに影響が無いレベル」として、正確無比ではないが、「嘘」でもないという風に、悪の印象を弱める。

 国会答弁は一文一文を見ると正しいような気がするが、つなぐと間違っているような気もする、そんな答弁を日夜、作成する。テレビの国会答弁を聞くと「何言っているんだコイツ」と思うだろうが、あれはすべて理屈があって考えられている。「そんなことは聞いていない、ちゃんと答えろ」と言われたら、もう一度同じ答を読む。揚げ足は取られない固いガードで作られている。したがって効率が悪くなる。

 耳かきいっぱいのプルトニウムで100万人の致死といわれていた時代に、1ミリグラムのプルトニウムで大騒ぎということもある。輸送途上の事故は誰の責任か、という住民対策を練った。輸送途上ならば運送会社の責任で、門を入ったらこちらの責任で、とか、どちらでもよい気がするが、無駄な対策をいっぱい作る。でも、これも後の責任を避けて生き残るために有効な手段となる。結構時間がかかる。

やばい仕事をどう逸らすか

○バレたらクビかも

 私は国に批判的な立場だが、教育系の機関紙や雑誌などに投稿もする。ある機関紙に、「生徒一人ひとりがものごとを自分で考えて判断できるように教育すべき」と投稿した。役所の方針と違うことを言うと結構怒られる。ばれたらクビも危ない。

 最初のやばい仕事では、赴任したら前任者はもういなかった。引き出しを開けたら、なにやらヤバいことをした会社があるとの調査レポートがある。放置できない。ずるい前任者は知らん顔で異動したその案件を、私は2年間かけて処理した。この場合、上司に知らせるのが絶対不可欠で、自分一人でごまかそうとするとひどい目にあう。もしやばい事実を見つけてしまったら、共犯者を増やすことは必須である。

○やばい仕事が人を死なす

 同じころ、配管が破れてナトリウムが漏れた某プラント事故があった。事故は設計の想定内で、燃えていたナトリウムは窒息消火をしていた。そのあと報道からの問い合わせに、実は事故のビデオがあるにもかかわらず、プラントの職員が故意か過失か、撮影した画像は無いと応えてしまった。そこでビデオ隠しではないか、と勘繰られた。なるべく早く、うっかりしてました、忘れてしまい、ごめんなさい、と言うべきだった。

 その時「画像はないと答えてしまった経緯について調べろ」といわれ、調べていた某課次長が、自殺してしまった。

 メンタルにならないこと、共犯者を作ることまでは私の想定内だったが、自殺は初めてのことだった。当事者でもない、経緯をまとめるだけの仕事でなぜ死ななければならないのか。言えないようなひどいことがあったのではないか。偶然の巻き添えは絶対にあると思った。

〇やばい人間にやばい仕事は回ってこない 

 自殺した某課次長は死ななければならないかなぁ。全部話してしまえばよいのにとは思うが、そういう真面目な人にはこういう危ない任務が回ってくるようにできていた。

 ここでヒントを得た。私のところに回せばやばいと思わせることだ。昔は宴会部長のような人がいて、そういうことしか出来ない人には困難な仕事は回ってこない。

 多くのトラブルを見てきたことが後になって役立つ。

 ○ 失敗のパターンは「報告しない」「自分でナントカしよう」、これがまずい。隠すのが習慣のような職場では不具合だ、と声をあげ、状況報告により共犯者を増やすこと。組織の中で不具合情報を広げて知らない人がいなくなる状態が、自分を守ることになる。

 ○ 役所では時間を稼げば逃げ切れることもある。逃げまくると実力はつかないが、生き残れることもある。とにかく嵐が過ぎるのを待つ。

君は文書を書き換えるか?

 友人たちに聞いてみた。君は文章を書き換えるか。

 意見は分かれた。上司の命令だから一応従う人。雰囲気が悪くなっても断る人。皆から攻められても最後まで抵抗できるかは厳しい。「書き換えない」という人はそんなに多くない。どっちにしてもこれからは、総理に都合の悪い公文書はなくなることだろう。

 総理は、節操なく友人へ私的に便宜供与を行う。その私物化に忖度していろいろつじつま合わせをした役所が悪いとして、当の本人が文書管理強化を行い、改ざんについての罰則を決めた。いやはや自分のために役所がやったことを、役所のせいにして、法律を強化するとは、もはやコソ泥が警察庁の長官のようなもので、手の施しようがない。とんだ茶番だが、ただ見ているしかない。

 コレハ漫才デハアリマセン。実話デス。

 仕事中にアクシデント発生。

 上司: ――おまえ、誰のために働いているのか。

 部下: ――国民です。

 上司: ―― ・・・・・(言葉に詰まる。)

 同僚: ――(こっそり後で)ダメですよ、官邸といわなければ。――――

 (文責編集部)

 この後、参加者による意見交換・talk&talkが行われました。9月1日号の本頁はこの続きとまとめの報告です。