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賃下げ再雇用は企業救済策か

おかぼん

 定年後の再雇用で賃金が引き下げられることの是非が争われた運送会社「長沢運輸」の訴訟で、最高裁は正社員との待遇の差を容認するとの判断を示した。定年後の賃金を減額して企業が雇用を確保している現実に沿った判断と言えなくもないが、同一労働同一賃金という考え方からは明らかに逸脱した判決と言える。

 正社員との待遇の差の容認には、その差が20%程度であったことも判決に影響したようだ。社会一般には30%程度という説もあるが、2016年のリクルート調査によるとその差50%以上の労働者が33.3%に上る。すなわち、3人に1人が定年時の半分に満たない賃金で働いているということになる。仕事内容がほとんど変わらないのに、である。

 定年後の再雇用は「既に退職金をもらっている」としても、それは現役時代の生涯賃金の一部、つまり労働の対価であるから、そのことによって同一労働同一賃金の考え方が揺らぐことがあってはならない。それが許されるならば、資産家で不動産収入がある労働者の再雇用は、一般労働者より低い賃金であっても甘受しなければならない、ということになってしまう。

 ところで、60歳以降も働き続ける際の賃金が、60歳時点の75%未満であると、低下した賃金の一部を雇用保険で補う「高年齢雇用継続給付」という制度がある。これを受けることによって、大幅な賃金低下から救われるではないかという説がある。

 しかしちょっと待っていただきたい。会社が特別な苦境に陥っているわけでもないのに、新しく低賃金の制度を作り、その差額を雇用保険(税)で補填するというのはどう考えてもおかしくはないだろうか。しかも、この「高年齢雇用継続給付」が受けられる労働者は、先のリクルート調査によると、何と81.4%が該当するという。

 今回の最高裁判決、せめて「会社に特段の事情がない限り60歳時の賃金の75%以上保障」程度の判決は出してほしかった。ちなみに、労働者が減給の懲戒処分を受けても、賃金の90%は労働基準法で保障されるのである。