月刊ライフビジョン | off Duty

セキュリティーという名の回り道

曽野緋暮子

 いつものランチ会、お互いの終活トークの一コマ。

 先輩から数年前に亡くなられたお父様の預金口座の話を聴いた。――遺品整理をしていると、ほとんど取引のない預金通帳が出てきた。残高は千円少々。放置していても良かったが、この際けじめをつけようと銀行に出かけた。本人死亡で口座解約をしたいと窓口に申し出たところ、戸籍謄本等複数の公的書類の提出を求められた。書類を取り寄せると2千円超の費用がかかる。残高金が欲しくて行った訳ではないが、余分な出費をするのは何ともバカらしい。「では、手続きは止めます。」と言うと「亡くなられた方の口座をそのままにされては困る。」と窓口担当。最終的には彼女自身その銀行と取引があり、上層部に知り合いがいたので善処(?)して貰ったそうだ。(注*これは数年前の話です)――

 私にも、会社の出張費精算用にと言われて作った口座がある。地元に支店がないこともあり、残高数円の通帳とキャッシュカードが残っている。もう一つ、友人から頼まれ、当時の高利子に釣られて作ったへそくり用の口座もある。こちらも出し入れしないで休眠寸前。マイナンバーの活用はイマイチ不透明だが、今の世の中何が起こるかわからない。将来つまらないことで子ども達に迷惑をかけると申し訳ないので、思い切って口座解約に出かけた。「10年以上入出金がないのでATMが使えませんね。」とか、「こちらまで出て来られるのは大変ですよね。」といろいろ言われたが、本人が出向いたのであっさりと口座解約ができた。

 別日、義母の用事で1万円を振り込むことがあった。現金を振り込むと手数料が324円かかるがATMからだと0円なので、義母からキャッシュカードを預かって銀行に出かけた。

 ATMで最後までキチンと入力したがエラーになった。操作ミスかと思い再度チャレンジすると、「この操作はできません。窓口でお願いします。」のメッセージが出てくる。再再度チャレンジしたがまたしてもメッセージ。ATM横の電話で事情を話すと「お待ちください。」と返事があり、すぐに担当者が登場。メッセージのエラー番号を見て、「70歳以上の方で過去3年間ATM振り込みをされていない方は、振り込め詐欺被害防止でATM振り込みができないのです。」と言われた。そう言えば、以前新聞にそんな記事があったなぁ~。ATM振り込みするときは、本人が来店して銀行の上層部と面談してエラー解除して貰うしかないとのこと。

 「本人が来られないから来ているのに~。1万円を振り込むのに利子より高い324円を払うのはなぁ~。」と、何の解決にもならないオバサントークをブツブツしていると、担当者が「ATMで1万円を引き出されてお客様のキャッシュカードで振込人の名前を書き換えて送られたら、手数料なしで振込できますよ。」とウラワザをアドバイス。結局、同じ銀行同士だったから無事、手数料なしの振込ができたが、単独のATMだと頭を抱えながら銀行に出直さなければいけなかった。

 金融関係の窓口業務が対面からATMに替わって便利になったと思っていたが、トラブル対処は人間に頼らないと解決できないことが多い。でも、各銀行は人員削減、支店削減を打ち出している。何歳になっても自力で対処しなければいけない時代になるのだろうか。と言いながらも画面に「70才以上の高齢者は…」なんてお触れが出てきた時、一人暮らしの高齢者は自分のお金さえ自由に動かせなくなるのかな?

 アンテナ張って情報を取っているつもりでも、つまらないポカをすることが多くなっている。回り道が多すぎて、なかなか目的にたどり着かない。いやはや、面倒な世の中になったものだ。