月刊ライフビジョン | 社労士の目から

増加する障害者雇用を見つめて

石山浩一

 東京オリンピック・パラリンピック開催に向けて準備が進められています。特に障害者のスポーツ祭典であるパラリンピックに関する広報が目につきます。
 同様に障害者の雇用も増加傾向にありますが、こちらには厳しい制約が多くあります。

障害者が増加する背景

 厚生労働省の調査による障害者数は身体障害、知的障害、精神障害の3区分に分けられています。それぞれの推移では、身体障害者が平成18年の357万人から平成27年には393万人に、知的障害者が平成17年の41.9万人から平成27年には74.1万人に、精神障害者が平成17年の267万人から平成27年には320万人と増加しています。
 増加の理由としては社会の変化なども考えられますが、茨城大学の荒川智教授は、潜在化していた障害が顕在化したためと指摘しています。LGBTにも共通することといえそうです。国は平成13年より特別教育から特別支援教育への転換を進めましたが、これが保護者の理解を得られたことから、顕在化にもつながったようです。

 特別支援教育の理想は、次のように謳われています。
 「特別支援教育は、障害のある幼児児童生徒の自立や社会参加に向けた主体的な取組を支援するという視点に立ち、幼児児童生徒一人一人の教育的ニーズを把握し、その持てる力を高め、生活や学習上の困難を改善又は克服するため、適切な指導及び必要な支援を行うものである。
 また、特別支援教育は、これまでの特殊教育の対象の障害だけでなく、知的な遅れのない発達障害も含めて、特別な支援を必要とする幼児児童生徒が在籍する全ての学校において実施されるものである」

増加する障害者の就業

 障害者の就業も法律の改正があって増加しています。障害者の法定雇用率が平成13年の1.8%から2.0%に引き上げられました。さらに障害者雇用納付金制度が、これまでの200人を超える企業から100人を超える中小企業にも適用されるようになり、雇用を促進しています。

 平成26年度にハローワークでの障害者の新規求職申込件数は191,853件で、前年度比4,655件、2.5%の増加です。就職者件数は93,229件で同3,038件の増加となっています。特に精神障害者の就職者数が7.7%の増加で41,367件と最も多く、次いで身体障害者が26,960件、知的障害者が20,342件となっています。働く意欲のある障害者が増え、企業側の理解が進んでいる結果といえそうです。

うつ病の就業促進と障害年金

 平成25年の障害者雇用の内訳は身体障害者が76%、知的障害者が20%で精神障害者は4%です。現在の障害者雇用促進法では、精神障害の雇用は義務化されていません。精神障害の定義が難しいことや、症状の変化が大きいことなどが就業の機会を阻んでいると考えられます。
 政府としては精神障害者の就業を促進するため、平成30年から障害者雇用促進法の算定基礎に精神障害も算入することにしています。精神障害者にも就業の機会を与え、自立した生活を目指しているのです。

 それでも就業できない場合は障害年金が考えられます。
 職場などでのセクハラやパワハラ等により精神的なダメージから障害者となるケースは多くあります。障害年金の受給には①初診日の確定、②保険料納付要件、③障害状態に該当の3つの要件が必要です。担当医がそこまで考えて診察をすることが少ないことから、障害年金のスムーズな受給のためには、受給3要件を本人自身が意識することが大切になってきています。

 うつ状態になり休業すれば休業補償や傷病手当金が支給され、1年6か月経過後に治らなければ障害補償年金または障害年金が支給されます。しかし強度な精神疾患の場合には将来の社会復帰が困難として、傷病手当金の不支給も想定されます。さらに休業となった精神疾患が以前の症状の再発による等の場合は、障害補償年金や障害厚生年金に該当しないと判断されることがあります。精神疾患はデリケートな病気であり予防は難しい病気ですが、その場合の対応も考えておく必要があるといえるでしょう。


石山浩一 
特定社会保険労務士。ライフビジョン学会代表。20年間に及ぶ労働組合専従の経験を生かし、経営者と従業員の橋渡しを目指す。   http://wwwc.dcns.ne.jp/~stone3/