政府が声高に叫んでいる「働き方改革」の柱である同一労働同一賃金に関する裁判が報じられている。昨年7月26日大阪高裁判決の「ハマキョウレックス事件」、同年11月2日東京高裁判決の「長澤運輸事件」、そして今年9月14日には東京地裁で「日本郵便事件」の判決もあった。上告や控訴中の事件もあり確定はしていないが、同一労働同一賃金の方向性が見えてきたようである。
「働き方改革」の本家である「1億総活躍社会」を提唱した安倍内閣は、大義なき解散を行った。今後の政権によっては労働者保護の形骸化が懸念されるが、非正規労働者のあるべき労働条件の追求は政権に関係なく進めるべきである。
3件の判例に見る手当の支給判断
同一労働同一賃金のキーワードは「均等・均衡」である。「均等」とは同じ労働であれば正規・非正規にかかわりなく同じ賃金でなければならない。「均衡」とは同じ労働だが働く時間が短いなどの前提条件が異なる場合は、異なる割合で賃金を決めることである。
これまでの3件の判例では、長澤運輸事件は定年後の基本部分に言及しているが、他の2件は基本部分に関する指摘はなく、手当の支給及び不支給の合理性を指摘している。その内容は下記のとおりである。
日本郵便 ハマキョウレックス 長澤運輸
判決日 29年 9月14日 28年 7月26日 28年 5月13日
外部業務手当 × - -
早出勤務手当 × - -
祝日給 × - -
夜間特別手当 × - -
業務精通手当 × - -
年末年始勤務手当 ○ - -
住居(住宅)手当 ○ × ×
夏季冬季休暇 ○ - -
病気休暇 ○ - -
無事故手当 - ○ -
作業手当 - ○ -
給食手当 - ○ -
通勤手当 - ○ ●
皆勤手当 - × ×
家族手当 - - ×
- ○は裁判所が支給を命じた手当。×は裁判所が支給を命じなかった手当。
- -は該当なし。 ●は非正規労働者にも会社が支給している手当。
住宅(住居)手当は日本郵便では支給を命じているが、ハマキョウレックスや長澤運輸では不支給を不合理ではないとしている。各会社の手当項目に共通項目が少なく、支給・不支給の合理性の判断が現段階では難しいので、今後の裁判の結果で判断されることになるだろう。ただし、現段階では、ガイドラインで示されている原則支給とは判断されていない。
難しい同一労働の判断
日本郵便やハマキョウレックスの裁判では、労働者の賃金の大部分を占める基本部分の格差については是正を求めていない。同一労働同一賃金があるべき待遇だが、手当や福利厚生について是正を求めたのはなぜか。同一労働同一賃金のガイドラインでは、基本給について3通りの例を示している。①職能給制度賃金の場合 ②成果主義賃金の場合 ③年功序列賃金の場合について、それぞれのパターンで解説している。その共通点は、①同じ職業経験・能力である場合、②同じ業績・成果である場合、③同じ勤続年数である場合は、基本給について同一の支給をしなければならないとしている。しかし、同一労働の前提となる能力や経験や成果等の判断が非常に難しいため、基本部分の要求はしなかったと考えられる。
今後も格差是正の裁判は増加すると思われるが、基本部分に対する要求は難しく、手当や福利厚生に対し同等の要求を求めることになると予想される。非正規雇用労働者にとっても正規労働者同様に、賃金制度に夢はなくとも希望が持てる賃金制度にすべきである。
これから審議される法案で改善されることを期待したい。
石山浩一
特定社会保険労務士。ライフビジョン学会代表。20年間に及ぶ労働組合専従の経験を生かし、経営者と従業員の橋渡しを目指す。
http://wwwc.dcns.ne.jp/~stone3/