月刊ライフビジョン | 地域を生きる

青空討論会が地域を作る

薗田 碩哉

 町田市東部の鶴川団地の中央にある商店街、その一角に市立鶴川図書館がある。酒屋や蕎麦屋やケーキ屋と軒を並べて、商店街のいちばん端にあるこの図書館は、開館を待ちかねたようにやってきて新聞各紙を丁寧に読んでいるお年寄りから、絵本を目当てに小さな子どもの手を引いて来る母親、放課後の小・中学生や高校生、話題の小説を借りに来るご婦人、何やかやの調べものに訪れる大学生や勤労者まで、全世代に重宝されている地域密着の図書館である。

 市が「公共施設再編」を掲げて、この小さな図書館を潰す計画を立てたのに対抗し、図書館の存続を求める市民運動を多彩に展開してきたことはこの欄で何度も紹介した。市は、市民の抵抗の前にちょっとばかり計画を見直し、まったくゼロにするのではなく「図書館代替施設」を残すという方針を出してきた。しかし、その案は、市の図書館ネットワークとのつながりを絶たれ、専門の司書もいない、単に、少しばかり本の並んだコミニュティ・サロンづくりのプランに過ぎない。市民の側からすれば、そんなものでは「代替」になどならない、市が直営を維持しつつ、市民も応分の参画をして、運営費は切り下げても図書館機能を充実させる策はあると、費用の計算までして対案を打ち出した。

 市は市民案をまともに検討さえしないで、「本のあるコミュニティ施設」の検討をあるコンサルタントに結構な費用で丸投げしたことは8月号に書いた。その後の動きを見ると、あんまりはかばかしくはない。そのコンサルがこれまでやっとことは、いくつかの地域団体へのヒアリング、商店街のお祭りに便乗してクイズラリーとか子ども向けの工作、図書館前のアーケードに椅子を並べて「テラス席を設置」、「図書館でこんなことできたらいいな!を教えてください」というアンケート程度。そのくせ、地域の代表者を集めた会議をそっと?開いて、そこでは「本のあるコミュニティ施設を作る」という市の方策をしっかり説明したりしている。これでは結局のところ市の原案に沿った報告書を作成して「はい、さようなら」というのは目に見えている。市はその報告書をお墨付きにして当初の狙い通りの計画を粛々と推し進めていくつもりだろう。

 市はなぜ市民とまともに向き合うことを避けるのだろうか。昔々の無知蒙昧なる人民とは違って、今の市民ははるかに成熟している。市民の中には様々な専門家もおり、実業で実績を上げた経験者も少なくない。そして何より、地元で暮らしてきた市民の目には、地元の問題点もわかっているし、地元にどんな可能性があるかも見えている。コンサルに何百万円も支払うぐらいなら、地元の知恵を集める場を本気で作ってくれれば、その10分の1の費用で、はるかに突っ込みの深い、実現性も、効果も十分期待できるプランが作れるというのに。市民自治はここまでネグレクトされているのである。

 この問題が生まれてから、われわれは「鶴川図書館大好き!の会」というのを作って広報活動に努め、議会への請願から講演会やワークショップの実施やら、あの手この手の運動に取り組んできた。その一つが読書の秋真っ盛りの11月に開いてきた「鶴川図書館応援まつり」である。今年で4回目を迎えた。お祭りだから楽隊もあり、いろんな遊びもあり、ピエロも出てくるし、図書館に入らないと解けないクイズもある。図書館祭りらしく古本市もあり、本づくりの相談コーナーもある。市の図書館廃止計画とそれへの対抗運動を説明するパネルを置き、ビラを配り、関心を持ってくれる人とはいろいろ話し合いもする。10月末にコンサルが実施した図書館イベントを吹き飛ばすような市民主導の元気な図書館祭りに取り組み、今年は好天に恵まれて、たくさんの人が来てくれた。

 今年の新機軸は「青空討論会」であった。「市は目の前の図書館をなくそうとしているが、それでいいのか」、「市は代わりに図書館もどきの本のあるサロンを作るということだが、それでは図書館の役割は果たせないのではないか」という論点を、広場に椅子を並べて抜けるような青空のもとで論じ合った。論議に参加したのはまことに多彩な顔触れで、「大好き!の会」の活動家はもとより、サラリーマンもいれば教師も学習塾の先生もおり、市会議員さんも通りすがりの人も、そして元気な中学生も参加してくれた。中学生君は若い世代のスマホ利用の現状を紹介し、電子書籍の充実を要望し、お金がないならクラウドファンディングをしたらどうかという提案までしてくれた。

 討論というのは我々日本人が苦手とするところである。思うところを公衆の面前で堂々と開陳することを求められたら二の足を踏む人が多い。議論の場はあっても覗いてみるとあらかじめ書いてきた原稿を読み上げている。市議会でも国会でさえも、原稿読みが圧倒的、シンポジウムという触れ込みでも丁々発止のライブな議論より、演者が順番に原稿を読むことの方が目立つ。これでは生きた議論にならず、議論から新たな知見が生み出されることもあんまり期待できない。

 地域にみんなが自由に議論できる場を作りたい。それも密室での論議でなく、オープンで誰でも耳を傾け、それに触発されて感じたことを言い合える場があっていい。地域づくりの土台である市民意識は、そうした場からこそ生まれてくる。青空討論会はその出発点になる試みだった。

地域のスナップ】 図書館のあり方をめぐる青空討論会

 文字通り老若男女の多彩な顔ぶれで、マイクを回しながら、図書館の望ましい姿について縦横に論じあった。

 地域にみんなが自由に議論できる場を作りたい。それも密室での論議でなく、オープンで誰でも耳を傾け、それに触発されて感じたことを言い合える場があっていい。地域づくりの土台である市民意識は、そうした場からこそ生まれてくる。青空討論会はその出発点になる試みだった。


地域に生きる 2022年12月]◆ 薗田碩哉(そのだ せきや) 1943年、みなと横浜生まれ。日本レクリエーション協会で30年活動した後、女子短大で16年、余暇と遊びを教えていた。東京都町田市の里山で自然型幼児園を30年経営、現在は地域のNPOで遊びのまちづくりを推進中。NPOさんさんくらぶ理事長。