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日本社会の安全裕度が低下している

司 高志

 知床で遊覧船が消息を絶った。まず、お亡くなりになった方々のご冥福をお祈りする。未だに発見されていない方々のご無事もあわせてお祈りする。

 このような事故をみると、どうしても日本社会全体の安全裕度が低下していると思えてならない。建物や橋、航空機に鉄道、エンタテインメント施設などなど、徐々に安全裕度が失われているのではなかろうか。

 安全裕度とは、この程度で設計すれば安全とか、この程度に作っておけば、まずは、安全確保されるという基準に対して、どれほどの程度まで、安全に余裕があるかということである。

 さて、話を元に戻そう。事故の内容が、報道とともに徐々に明らかになりつつあるが、いまだ全容は見えてこない。そういう段階で、あれこれ憶測で書くのは控えたいが、それにしてもやはりというか、運航会社の経営者の杜撰さが、目につく。

 この運航会社の経営者が代わってから、ベテランの社員を解雇し、経験の浅い社員に置き換えていったようだ。人件費を浮かせるのが目的らしく、お金のために安全を削ったという結果につながってしまった。

 その他にも、遭難した同船は、昨年にも事故を起こし、その傷をしっかりと補修しておらず、今回の事故はそれが元で浸水したのではないかという疑問も持たれている。

 また、陸側の設備で、無線のアンテナが壊れており、同船との通信が途絶していたという報道もある。

 これとは別に、船舶の航行には、法規制もあるはずで、法規制によってこの事故は未然に防げたのではないかという疑念が派生している。このような事故が防げなかったのは、法規制に問題があったのではなかろうか。

 深夜バスなど、事故が続いて世間に知られてきたが、最近では、事故は減っているように見受けられるので、規制は機能していると考えられる。

 社会現象としては、車が船に変わっただけで、同一の構造をしており、結局、儲けた者が偉いという社会風潮がはびこり、安全性を低下させてでも、バレなければ儲けた者勝ちだという誤った認識が蔓延している。

 ところで、この原稿が日本社会の安全裕度が低下しているという視点で書いているのは、もう一つの人災が頭に思い浮かんだからである。

 それは、昨年起きた静岡県熱海市での土石流災害である。土石流の原因は、杜撰な盛土だといわれているが、盛土をした張本人は、杜撰で手抜きの盛土をしたばかりか、違法なごみ投棄まで行っている模様だ。また、この張本人は、太陽光発電施設を持っており、この施設も土石流に影響しているのではないかともいわれている。ここでも規制はその役割を果たすことができなかった。

 従順な市民には、それなりにものをいう公務員も、初めから悪意のある事業者にはめっぽう弱い。直接の責任者は地方自治他の担当者だが、ポンコツムード官庁の環境省が絡んでいるのでは、どうしようもない。

 ポンコツムード官庁の環境省は、反対派がいないので、自分たちの中でどのように規制しなければならないかを検討、改善することができない。たまに地方自治体に出向して、規制のノウハウなどを学んでくるのかもしれないが、所詮はお客さんである。国民の批判にこたえるような規制はできず、所管法令のみを言葉の上で書き換えるだけである。

 レジ袋の有料化など実際の環境問題の解決には何の役にも立たず、環境問題を認識してもらうために有料化したのだそうな。単なるムードだけで行政を行うムード官庁である。

 最近では規制を行う組織も、国から委託を受けたものが行っており、それも競争入札で行われるから、安いところが勝ち残り、仕様書に書いてあることを杓子定規に行うだけである。志のある公務員も減ったが、規制の害虫、いや間違えた。規制の外注もいただけない。

 ということで、儲けた者勝ちの社会風潮に、まともに機能しない規制が加わって、日本社会の安全裕度はますます劣化していくのである。